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2014年04月18日

『弱虫ペダル』で考えるリーダーシップ

今、とても「アツい」と評判の『弱虫ペダル』をご存じでしょうか?
少年チャンピオンに連載中のマンガなのですが、現在アニメとしても放映中であり、またアニメより前に舞台化もされています。
(ちなみに私は、贔屓にしていた俳優さんが出ているという理由で、舞台からこの作品にハマりました)
本作品、ヒトコトで言えば少年漫画の王道である、「仲間と力を合わせてトップを目指す」という、いわゆる「スポ根もの」なのですが、高校生の自転車ロードレースが題材になっています。
主人公の小野田は、ロードレースとは全く無縁の「ぼっちでコミュ障のアニメオタク」でしたが、ひょんなことから自転車乗りの才能(毎週千葉から、オタクの聖地である秋葉原まで往復90kmを自転車で通っていたのがその背景!)を認められ、自転車競技部に入部します。
自転車レースというと、個人競技というイメージがあるかもしれませんが、役割分担のある団体戦をメインで描いており、登場人物のキャラクターの面白さとチームワークが、緊迫感のあるレースシーンの中で「アツく」描かれているのが、評判になっている要因でしょう。
私も舞台を劇場で観て、それらに大いに笑い、そして泣かせてもらいました。
しかし単にこの作品にハマるだけでなく、客観的に眺めてみると、様々な示唆に富んだ作品であることもわかってきました。
そこで本日は、この『弱虫ペダル』に登場する各チームの「リーダー」に焦点を当て、ビジネスパーソンとしてのリーダーシップについて考えてみようと思います。



本作品には、各チーム(高校)の個性豊かなリーダー(エース)が登場しますが、その中でも主要な3人を取り上げてみます。


<御堂筋>
京都伏見高校のエースである彼は、なんと1年生です。
しかし入部したその日に、3年生のエースであり部長でもあった石垣と勝負(もちろん自転車で)し、その圧倒的な実力を見せつけ、完膚無きまでに叩きのめします。
そして前年に全国9位であったチームを「優勝させるから僕に従え」と迫ります。
当然上級生達は反発しますが、それでもみんな優勝したいし、自転車が好きです。
石垣はそれに賭け、エースを御堂筋に譲り、従う道を選びます。
さて、彼のリーダーとしてのスタイルは、「徹底的かつ細かな管理」です。
戦術とそれに基づく指示は非常に具体的。
指示された側は、「言われた通りに動く」ことだけが求められ、自己判断の余地はありません。
メンバー選定と役割分担も、自分の判断だけで決めます。
彼はメンバーを信頼していないのです。
つまり完全に他のメンバーは「将棋のコマ(彼曰く「量産型ザク」)」であり、利用するだけしたら、切り捨てるのにも全く躊躇がありません。
レースの途中で自分の役割を必死に果たしたメンバーを、「予定通り」置き去りにします。
こうして、彼が入るまでは和気藹々としたチームだった京都伏見は、完全な軍隊型チームになってしまいました。
しかし前年は全体9位だったのが、彼のお陰で常に優勝争いをするようになります(インターハイ1日目は同着の1位、2日目は3位)。
つまり成果は出しているわけで、彼のこのスタイルが「間違っている」とは言えないはずです。


<福富>
二人目は、主人公のライバル校である、神奈川箱根学園のエース、福富です。
彼は自転車レースのサラブレッドという出自もあり、御堂筋と同様に「圧倒的な力を見せつけるカリスマ」です。(臆面もなく「俺は強い!」と豪語します)
ただ、御堂筋と違い、彼の力は従わせるために意図的に見せるものではなく、御堂筋のように「僕に従え」とは言いません。
しかし他の部員達は、自発的に「ついていこう」となる。彼は選手としての「憧れの対象」だからです。
そしてメンバー選定も御堂筋とは一線を画します。
「インハイメンバー選考レース」で公平に競わせ、下級生でもメンバーに抜擢します。
また、指示も御堂筋と違って大まかであり、基本的には「お任せ」です。
メンバー選考の基準が「実力」であり、それを発揮し、見せた相手を信頼しているからです。
ただ、「俺、追いましょうか」と言ったメンバーに「ダメだ」と言ったように、間違った方向に進もうとするメンバーにはきちんと指導しています。


<金城>
そして三人目が、主人公である小野田のいる千葉総北高校のエース、金城です。
彼も同然のごとく能力はチーム1(前年のインターハイではアクシデントまではトップ)であり、福富と同じように公平に競わせ(合宿で1000km走破)、チームメンバーを決めます。
しかし彼が福富との最も大きな違いは、「メンバーを支える」ことに力を注ぐところです。
具体的なシーンで説明しましょう。
一人だけ素人なのにメンバーに選ばれた主人公が、悩みながら作り笑顔で「頑張らなくちゃですよね」と言ったひと言に、「頑張らなくてもいいさ」と彼は答えます。
「ひとりで頑張らなくてもいい」
「お前が倒れたら俺が支える」
「しかし、誰かが倒れたらお前が支えろ」
この「全員が支え合うのがチーム」という信念は、全く揺らぐことがありません。
ですから、指示の与え方にも特徴があります。
それは、「これこれをやれ」でなく、「お前の役割は」と、チームと戦略における各メンバーの「位置づけ」を明確にしてあげる点です。
主人公は、その役割を果たそうとする、つまり「期待に応えたい」というモチベーションによって、とんでもない力を発揮します。
役割が与えられる(自分のポジションが明確になる)ことで、主人公はチームにとって「欠かせない存在」であることが認識できたのです。


さて、いかがでしょう。
三者三様、個性溢れるリーダー達ですね。
私もこれを書きながら、「なるほどねえ」と思ってしまいました(笑)
しかし、重要なのはここからです。
御堂筋のような「軍隊指揮官型リーダー」とは、一緒に仕事したくないと思われたかもしれません。
やはり福富のような、行動と結果で組織を率いる「ロールモデル型リーダー」や、金城のようにチームワーク第一の「ファシリテーター型リーダー」が、「上司だったらいいのに」と思われた方も多いでしょう。
しかし、組織の目的と置かれた状況によっては、時として「軍隊指揮官型リーダー」の方が向いている場合もあります。
戦争における軍隊は言うに及ばず、スタートアップ企業などでも、カリスマ創業者の「圧倒的実力」と「コマに対する具体的指示」が必要な場合もあるはずです。


また、どのタイプが上司として望ましいかだけでなく、自分はどのタイプが向いているか、も考えてみると良いでしょう。
ちなみに私の場合は、あえて言えば福富タイプかもしれません。
さらに、この3タイプの様々な特性を分解し、組み合わせることによって、自分が目指すべきリーダー像が見えてくるかもしれません。
もちろん、リーダーのタイプはこの3つに分類されるわけではありません。
その意味では、『弱虫ペダル』だけでなく、『黒子のバスケ』などで考えてみるのも面白いかもしれません(笑)

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