ファカルティズ・コラム
2014年09月24日
『吉呑み』に見る「戦場をずらす」という差別化戦略
先月は2回に渡って「すき家」を取り上げましたが、今回は「吉野家」です(笑)
ちなみに私自身は、半年に1回くらいしか牛丼屋には行きません。
(いや、「よっぽど牛丼が好きなんだな」と思われそうで)
その吉野家の新業態、『吉呑み』が人気のようです。
取り上げた記事はこちら。
記事によれば客単価は1000~1500円とのことですから、平均滞在時間は30~45分程度でしょうか。平均的な牛丼屋の客単価400~600円、平均滞在時間15分程度と比較すると、効率も悪くないと思われます。
元々は1階と2階にフロアのある店舗が、夜は2階が(客が入らないため)遊休スペースになってしまう。この2階フロアの有効活用として「ちょい飲み」業態を選択したようです。
しかしこれ、実は典型的な「ブルーオーシャン戦略」でもあります。
「ちょい飲み市場は既存の居酒屋チェーンでも始めてるし、ガストやケンターキーフライドチキンもやってるよね。それでブルーオーシャン、つまり新市場の創造ってオカシクない?」
いやいや、「市場創造」だけがブルーオーシャン戦略の本質ではないのですよ。
私は、ブルーオーシャン戦略の本質は「戦場をずらす」ことだと考えています。
具体例で説明しましょう。
ブルーオーシャンの事例としてしばしば取り上げられる「シルク・ドゥ・ソレイユ」。
確かに一見すると、「新たなエンターテインメント」市場を創ったように見えます。まさに「競争する相手のいない青い海」のようです。
しかし、団体名からもわかるように、あれはサーカスです(そもそも「シルク・ドゥ・ソレイユ」とは「太陽のサーカス」の意)。しかし他のサーカスにはない芸術性やテーマ性、客席の快適性などにより差別化できた。それが勝因です。
そして「他のサーカスにはない部分」が、いわゆる「新たな競争要因」と呼ばれるもの。
この「新たな競争要因」、つまり「従来は競争要因と誰も考えていなかったもの」を見つけられるかどうかが、ブルーオーシャン戦略のキモです。
では、シルク・ドゥ・ソレイユには、本当に競争相手がいないのでしょうか?
ここで先ほどの「芸術性/テーマ性/客席の快適性」という競争要因を見てみましょう。これらを競うエンターテインメントは本当に他にありませんか?
そう、オペラやバレエ、ミュージカル、美術館などの市場は、これらの競争要因によって差別化をはかっています。
つまり、シルク・ドゥ・ソレイユは、「戦場をずらした」、完全に戦場を変えたというより、元の戦場にもとどまりつつ、別の戦場にも加わったのです。
そう考えると、価格では確かに他のサーカスより割高ですが、オペラやバレエよりは安価ですから、価格競争では優位に立てることがわかります。
既存のサーカス市場においては、前述の通り「新たな競争要因」で差別化できます。
いかがでしょう。
「戦場をずらす」ことと、その意味がおわかりいただけましたか?
では、『吉呑み』に話を戻しましょう。
この新業態は、吉野家が従来の「牛丼市場」という戦場から、「ちょい飲み市場」へ戦場をずらしたと言えます。
では、「新たな競争要因」、つまり各市場(戦場)における差別化要因は何か。
私は、「牛丼市場」においては、「本格的な酒のおつまみ」であり、「ちょい飲み市場」においては、「駅のそばという立地条件」だと考えます。
経営という観点では、「客単価が上がる」点がポイントですね。
実は、吉野家のライバルであるすき家も、過去にこれで成功しています。
「牛丼戦争」とまで呼ばれる熾烈な価格競争で、牛丼業界は疲弊しました。
そこですき家はターゲット層を従来の「男性一人客」から「ファミリー」にシフトし、品揃えとテーブル席を増やし、プロモーションで徹底的にファミリー層向けをアピールしました。
つまりすき家は、「牛丼市場」から「ファミレス市場」に「戦場をずらした」のです。
「牛丼市場」での新たな競争要因は、「品揃え」であり「快適性」です。
そして「ファミレス市場」では、「低価格」と「気軽さ」を武器に戦ったわけです。
そしてこれも、「客単価を上げる」ことを狙っていました。
この「戦場をずらす」という発想は、他の業種でも使えるはずです。
個人的には、「ブルーオーシャン」というキャッチーなネーミングが、却ってこの戦略を敷居の高いモノにしてしまった面があると思っています。
私も一度『吉呑み』に行こうと思っています。
そして、他の「戦場をずらす」アイデアを考えてみようと思っています。
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