ファカルティズ・コラム
2015年01月16日
「表現の自由」は条件付きの自由
フランスで起こった新聞社テロ事件。
事件そのものは収束しましたが、その後も議論は続いています。
パリではテロリズムへの抗議と、表現の自由を求めた大規模なデモが行われました。
そしてそのデモの象徴でもある『私はシャルリー』のプラカードは、ジョージ・クルーニーをはじめとした多くの著名俳優達が、ゴールデングローブ賞の授賞式で掲げました。
しかし私は、「反テロリズム」に対しては全面的に支持するものの、デモの目的のひとつである「表現の自由」に対しては、はっきり言って全く共感できません。
なぜならば、「表現の自由と言っても、無条件に認めてよいわけではない」と考えるからです。
今回襲撃された新聞社は、ご存じの通り過激な風刺画で有名です。
そこで、私らしくまずはこの『風刺』という言葉から考えてみたいと思います。
『風刺』とは、社会や組織、そして人物の問題点や愚かしさを嘲笑することで批判する、表現技法です。
そしてその定義に含まれる『嘲笑』とは、その対象を馬鹿にしてせせら笑うことを意味します。
であれば、「嘲笑して良いのは何(誰)か?」
そこを考えるべきでしょう。
風刺すべき、そして風刺しても良い対象。それは社会や組織の理不尽さや権力者ではないのでしょうか。
決して嗜好や思想、そして宗教など「価値観の異なるだけの権力を持たない誰か」ではないはずです。
わが国における「落書」や「狂歌」もそうですが、本来、風刺とは「弱者の強者に対するささやかな抵抗」と考えることができます。
フランスにおいてマイノリティである、イスラム教徒の崇めるムハンマドを嘲笑するのは、この『風刺の本質』に反しているように思うのです。
「いや、過去にはローマ法王も風刺した」という方がいますが、バチカンという権力を持った組織のトップを嘲笑するのと、一宗教の開祖・象徴であり、イスラム教そのものとすら言えるムハンマドを嘲笑するのは、似ているようで全く違います。
現に、イエス・キリストそのものは風刺の対象としていません。(これについては情報が少ないので断定はできませんが)
繰り返しになりますが、「何(誰)でも風刺して良いわけではない」のです。
そしてもうひとつ。
確かに、私たちには「思想・信条の自由」、そして「表現の自由」があります。
しかしこれらの「自由」とは、本来は「道徳や倫理上の概念」ではありません。
国家の近代化や民主化によって確立された、れっきとした「法的概念」上の「権利」です。
ですからそこには、「法の解釈」と「判断基準」が存在します。
判断基準とは、その法が適用される条件と言っても良いでしょう。
つまり「表現の自由」においても、何らかの条件がつくのは当然なのです。
誤解無きように付け加えると、私は「検閲は当然」と言いたいわけではありません。
先の風刺の本質をわきまえた上で、風刺を含めたあらゆる表現の表現者自身が「これは…まずくないかな?」と、自身を厳しく律する必要があると言いたいのです。
「表現の自由」といっても、「無条件で、すべての表現が容認されるわけではない」のです。
風刺はやっても良いが、何(誰)でも風刺して良いわけではない。
そして、表現の自由とは条件付き自由である。
こうしたことから、私は安直に「表現の自由」を訴えることには反対です。
そう考えると、昨年議論となった、いわゆる「児童ポルノ法」においても、単に「表現の自由」を盾に抵抗することは無意味であることがわかります。
もっと条件の議論を尽くすべきでしたし、今後も続けるべきです。
とは言え明確な線引きは不可能ですから、具体例を挙げてグレーゾーンをある程度定め、ケース・バイ・ケースで判断するしかないと考えます。
管理・監督する側も、そして表現者側もかなり手間はかかりますが、その手間を惜しむのであれば、表現の自由を主張すべきではないとすら思います。
最後は少し脱線しましたが、ネットで今回のフランスでのテロに関するとても良い記事がありましたので、それをシェアして終わりたいと思います。
『ペンが与えるかすり傷は、銃が与えるかすり傷より深い – パリ在住日本人が見たフランス・新聞社テロ』(日経BP Online)
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