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ファカルティズ・コラム

2015年10月13日

「他人が作った土俵」で戦わない

「アクティブシニア」という言葉があります。
一般的には、自分なりの価値観をもち、定年退職後にも、趣味やさまざまな活動に意欲的な、元気なシニア層を指して、そう呼ばれています。
様々なメディアで「アクティブシニア層をつかめ」という記事が踊っているように、今後の有望市場として注目されています。
また、同様に「デジタルシニア」という言葉もあります。
こちらは、インターネットやパソコン、スマートフォンを使いこなしている高齢者を意味し、現在50代くらい(まさに私の世代)が、今後のデジタルマーケットで狙うべき層と言われています。
こうした、「今注目されている」あるいは「今後有望な」市場を表す言葉は、ちょっと前に話題になった「おひとりさま」なども含め、様々な呼称があります。
しかし、これらは所詮「他人が作った土俵」でしかありません。
どれだけの企業がそれに気づいているか…私はそれが心配です。





「有識者が、あるいはみんなが有望だと言っている」土俵に上がり、戦う。
たとえば「アクティブシニア市場」向けの商品やサービスを考え、リリースする。
それが「当然」であり「正しい」と考える人、企業は多いです。
しかし考えてみてください。それは「同じターゲットを狙う」競合がたくさん出てくるということです。
「いや、同業ではウチだけ」と言う会社もあるでしょうが、それはポーターの5フォースで言うところの「業界内の既存の競合」しか見ていないだけです。
業界は違っていても「ターゲット市場」が同じならば、そのターゲットの「財布の中身を取り合う」相手であり、つまりそれも明らかに競争相手です。
それを5フォースでは「代替品の脅威」と呼んでいます。
「若者のクルマ離れ」が言われて久しいですが、あれは「クルマより(お金を掛ける)優先順位が高い」商品やサービス、たとえば携帯電話やゲームなどが出てきたからです。
これが「同業も狙っている」であれば、さらに競争は激化するのは火を見るより明らか。
トレンドだから、みんなが言っているからと言って、安易に「他人の作った御輿」を担ぐのは危険なのです。
だから他人が作った土俵に乗るのがダメとは言いませんが、その前に一度はぜひ考えてほしいのです。
「自分達で土俵を作る」ことを。
そう、自社で「新たな顧客像」の名前を付けるのです。
それが「誰も気づいていない新たな有望市場」を見つけることに繋がります。
では、どうやって「自分で土俵を作る」のか?
それは「セグメンテーション」で試行錯誤するしかありません。
新規事業や新商品・サービスの開発・マーケティングにおいて、ターゲティング(対象顧客層の特定)を行うための市場の細分化、それがセグメンテーションです。
セグメンテーションには、以下の4つの切り口があります。
—————————————-
1. 地理的分割
 →国・都道府県・市町村・地区別、または都市部/農村部などの特性別に分ける
2. デモグラフィック(実態人口統計)分割
 →年齢・性別・家族構成・所得・職業・教育水準・宗教など、属性別に分ける
3. サイコグラフィック(心理的傾向)分割
 →ライフスタイル・趣味・個人の性格など、人のタイプ別に分ける
4. 行動(状況)分割
 →購買履歴・転職経験数・地域イベントへの参加頻度など、過去の行動別に分ける
—————————————-
これらの中から2つの軸を選び、それを組み合わせて表をつくる。
それがセグメンテーション(市場細分化)です。
そうしてたとえば「地域イベントによく参加している65歳以上の層」を「街好きシニア」と名付け、自社のターゲットにするのです。
このプロセスでのポイントはふたつ。
まずは「様々な軸の組合せを試す」こと。試行錯誤を繰り返さないと、競合が注目していない新たな市場を見つけることなどできません。
そしてふたつめが、「同じ切り口(たとえばデモグラフィック分割の中から2つの軸を組み合わせる)の軸を組み合わせない」こと。
たとえば「30歳代の女性」などは年齢+性別というどちらもデモグラフィック分割ですが、このようにあまりにも「ありきたりの顧客層」になりやすく、結果的に新しくネーミングするほどの新規市場にはならないからです。
この悪い例が、実はテレビ局のマーケティングです。いまだに、それも業界で共通の「F2層(35歳から49歳までの女性)」といったセグメンテーションをやっています。
個人的には、これをやめない限りテレビというメディアの未来はないとすら考えます。
以上ふたつのポイントを意識し、自分達で土俵を作る。
個々の企業は、それにチャレンジする必要があるのではないでしょうか。
そして「他人が作った土俵」は、上記のようなターゲット顧客だけではありません。
「スマート家電」や「スマートシティ」といった「商品・サービスのジャンル」もそうです。
スマートという言葉の自社なりの定義もせず、安直にこうしたバズワードを使っていては、イノベーションを起こすことなどできないと思いませんか?
さて、あなたの会社はどうでしょう?
いつまで「他人が作った土俵」の上だけで戦うつもりですか?

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