KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2016年06月06日

「良い答え」とは何か?

私たちは日々考え、答えを出しています。
そしてその答えに基づき、行動しています。
それは「今日のランチは何食べよう?」でも、「顧客を拡大するための次の一手は何にしよう?」でも変わりません。
そこに唯一の正解はありません。
しかし当然、そこには「良い答え」と「悪い答え」、つまり答えに基づいた行動の結果が「満足できる答え」と「満足できない答え」があります。
要するに答えの善し悪しは、結果が出てみないと本来は判断できないわけですね。
しかし、私たちは事前に答えの善し悪しを判断している。いや、判断せざるを得ません。
では、私たちは、何をもって「良い答え」と「悪い答え」を判断しているのでしょうか?
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具体例で考えてみましょう。
営業部門が「顧客の拡大策」について考える場面だったら?
そこで出てくる様々な答えの中で、どういった答えを「良い答え」と判断しますか?
 「そりゃあ、顧客の拡大に結びつきそうな策が良い答えじゃないの?」
 「あと、無理なくできることかな」
そうですね。やはり目的に対してどれだけ効果が上がるかという「実効性」、そしてリソースやリスクを勘案した「実現性」が高いかどうか。
これらの両面を満たしている答えを「良い答え」と判断するのは合理的です。
では、昨年ある程度効果があった顧客拡大策があったとして、それは今年も「良い答え」と言えるでしょうか?
…当然それはわかりません。
状況は変化しますから、昨年の施策が今年も効果があるかどうかはわからない。つまり昨年の良い答えが、今年も良い答えと断言することはできません。
そもそも、昨年別の顧客拡大策をとっていたら、もっと効果があったかもしれません。
つまり昨年「良い答だった」と思っていたものより、「もっと良い答え」が実は存在していたのかもしれないのです。
また、実効性と実現性が高そうに見えたとしても、それが競合他社と同じ策だったとしたら、それも良い答えとは言えないでしょう。
他者と同じことをやっていては、差別化などできないのは明らかですし、その結果、顧客の拡大にはあまり結びつかないかもしれないからです。
何より、今の日本企業に、そして私たちビジネスパーソンに求められている”イノベーション”は、「他人と同じ答え」から起きるわけもありません。


このブログで再三言っていることですが、私は、日本人ビジネスパーソンの「思考」に大いなる危機感を感じています。
イノベーション、つまり「変革」を起こす。そうして組織や社会を変えていく。
そのための「斬新・独創的な答え」を出す力が、とても弱くなっているように思えるからです。
自分の頭で考えた斬新・独創的な答えによって何かを変え、「成功する」ことよりも、前例踏襲型の手堅い答えによって「失敗しない」こと。
それを良しとするビジネスパーソンと組織が、日本から「イノベーションを起こす力」を奪っている。
私にはそう思えてならないのです。
グローバル経済における日本企業の現状を見てください。かつてイノベーションを起こし、欧米企業から怖れられた日本企業の姿は見る影もありません。
一部自動車産業が、輝きを保っている程度であり、家電やエレクトロニクスの分野に至っては、シャープや東芝の例を見ても明らかなように、今や欧米・中韓の後塵を拝している状況です。
自動車産業にしても、テスラモータースの電気自動車やgoogleの自動運転の技術などを見れば、決して日本企業は安泰とは言えません。
欧米企業の前例から学び、それを少しだけ上手に(たとえば安く、壊れにくく)実現するために知恵を絞り、手堅い答えで成功してきた。この日本企業の「成長の方程式」が通用しなくなっているのです。
これは製造業(第二次産業)だけの問題ではありません。
TPPをはじめとする大規模FTA、そしてインターネットとモバイル環境の普及によって、農業やサービス業といった第一次/第三次産業も、世界と対等に戦えなければ生き残れない状況です。
さらに言えば、これはグローバルビジネスだけの問題でもありません。
変化のスピードと振り幅が広く、かつ複雑化した現代社会において、かつての方法論が通用しなくなっています。
たとえば20年前に、誰が「ブラック企業叩き」や、「食品廃棄物の転売」などを予想したでしょう。
だから今、すべてのビジネスパーソンに求められるのは、「昨日の自分とは違う答えを見つける」こと、そして「他人とは違う答えを見つける」こと、そしてそのための「答えの導き方」です。


先に述べた「実現性と実効性が高い」答えは、確かに「合理的な答え」であり、その意味では間違いなく「良い答え」です。
しかし、見方を変えると、それはせいぜい「ローリスク・ミドルリターンな答え」でもあります。
私は、イノベーションを起こすために必要なのは、少なくとも「ミドルリスク・ハイリターンな答え」だと考えています。
さすがに高すぎるリスクは避けたい。だかと言ってローリスクでは、得られるリターンもたかが知れているからです。
そう、「良い答え」には、合理的な「ローリスク・ミドルリターンな答え」の他に、もうひとつ「ミドルリスク・ハイリターンな答え」があるのです。
ちょっと冒険ではあっても、高いリターン、できれば「イノベーション」を目指す。
昨年度から慶應MCCでスタートさせた「Leap思考」は、まさしくこうした「ミドルリスク・ハイリターンな答え」を出すための方法論を、皆さんと一緒に考えるプログラムです。
本年からは、タイトルも「イノベーション思考」に衣替えし、よりバージョンアップした「未来洞察のスキル」と「斬新・独創的な発想のスキル」をお届けするつもりです。
従来、こうした分野は、企画部門や商品開発、宣伝部門のような「クリエイティブな人向き」と思われていました。
しかし今や、未来を洞察し、斬新・独創的な発想をしなければならないのは、そうしたクリエイティビティが要求される仕事を行っている人「だけ」ではありません。
複雑化し、スピードの速い現代社会に生きる、全てのビジネスパーソンが、「前例踏襲の無難な答え」になりがちな「合理的なローリスク・ミドルリターンな答え」だけでなく、「イノベーションに繋がる斬新・独創的な答え」である「ミドルリスク・ハイリターンな答え」を出していかなければならないのです。
あなたの会社が競合他社と差別化する、そしてあなたが人材として他者と差別化する。
そして自分の部署や会社、そして社会を変えるイノベーションを起こす。
そのための「武器」として、ぜひ身につけてください。




【本日のまとめ】

◆私たちは、実効性と実現性の高い答えを「良い答え」と判断することが多い。
◆しかしその「合理的な答え」は、「ローリスク・ミドルリターンな答え」になりがちで、イノベーションには繋がらない。
◆だからもうひとつの「良い答え」である、「イノベーションを起こす答え」としての、「ミドルリスク・ハイリターンな答え」を出すスキルが、今求められている。
◆そのために必要なのは「未来洞察のスキル」と「斬新・独創的な発想のスキル」。


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