ファカルティズ・コラム
2020年12月11日
成功者の共通点から学ぶことのリスク
いきなりですが問題です。
以下の画像は、戦闘から帰還した爆撃機が被弾していた箇所の統計を可視化したものです。
この画像から軍は、
「よし、被弾率の高い部分(赤い点)の装甲を厚くして帰還率を上げよう」
と考えました。
しかしこれに対して数学者のウォールドは「いや違う。反対に赤い点以外の部分を補強すべきだ」と反対しました。
さて、ウォールドはなぜそんな反論を行ったのでしょうか。
一見、被弾率が高いのだから、そこを補強すれば良いように思えます。
しかしウォールドはこう考えました。
「無事に帰還できた爆撃機だけ見てはダメだ。撃墜された機体の被弾箇所データを見なければ、真に補強すべき箇所は判断できないはずだ」
確かにそうです。
赤い点は「無事に帰還できた機体」が被弾した箇所であり、反対に「これらの箇所は被弾しても墜落するリスクが低い」とすら言えるのです。
これは『生存者バイアス』の例としてよく語られる例です。
「バイアス」とは「偏見」のことで、「あの人の発言はいつもバイアスがかかっている」という使い方をします。
私たち誰しもが多かれ少なかれ持っているこの「バイアス」。それによってモノゴトのとらえ方(認知)が変わってしまう。それが「認知バイアス」と呼ばれるものであり、『生存者バイアス』はその一形態です。
生存した、広くとらえれば「成功した」例のみに私たちは目が行きがちになり、それによって判断を誤ってしまうことがある。
それが生存者バイアスの問題点です。
ですからこれは例として出した爆撃機の装甲をどうするか、といった問題以外でも私たちの日常に溢れています。
「カリスマ経営者であるA社長は○○の習慣があった」
「私も意識して○○を心がけていたら成功できた」
「みなさんも○○を習慣にしましょう」
はい、良く聞く話ですね。
私も講師としてのプレゼンテーションの中で、様々な事例を使って説明しています。
成功した人や企業の「共通点」に着目する。
これはKFS(Key factor for success:成功の鍵)を見つけるプロセスとして、とても重要です。
しかしそこで注意すべきなのが、
「だからと言って、それ「だけ」を意識すれば誰でも成功できるわけではない」
ということです。
「よし、じゃあ自分も(我が社も)それをやればいいのだな」
では、まさに「生存者バイアス」による判断ミスを招きかねません。
先の例で言えば、
・A社長は他にどのようなことを意識していたのか
・また、A社長の成功に外的要因は無かったのか
・さらにA社長と同様に○○を意識していたのに失敗した人はどこに問題があったのか
これらの情報も「調べようとする」ことが重要です。
ただ、「成功事例」は多く世の中に出回りますが、「失敗事例」は当事者が公開したがらないことも多く、また撃墜された爆撃機と同様「調べようが無い」のがほとんどです。
しかし少なくとも「成功事例に安易に飛びつく」ことは避けるべきでしょう。
たとえば、今ビジネスの世界では「サブスクリプション・サービス」、つまり年間/月間定額制のビジネスがトレンドであり、多くの成功事例が語られています。
しかし安易に「我が社もサブスクで…」という考えが「生存者バイアス」です。
現に失敗したサブスクビジネスはいくつもありますし、米国の食材宅配サブスクの最大手は既に撤退しています。
しかし失敗事例などはあまりニュースにならない、そこが問題です。
皆さんのビジネスや組織・業務の改革、そしてキャリア形成について考える時、「ちょっと待てよ。生存者バイアスに陥っていないか?」と問いかけてみてください。
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