ファカルティズ・コラム
2024年06月06日
困りごとの相談に答える
こういう仕事をしていると、様々な質問に答える場面が多くなります。
多くは企業での研修やMCCの講座における質疑応答のシーンですが、その中で、あるいは研修や講座の終了後や昼休みなどで、具体的な「困りごと」の相談をされることがあります。
皆さんも部下や後輩、時には上司や顧客、そしてプライベートの知人や家族から、様々な「困りごとの相談」をされたことがあると思います。
さて、皆さんはそうした場面でどう考え、どう答えていますか?
そしてその際、どのような点に注意していますか?
本日は、私が最近そうした相談において意識していることをお話ししてみようと思います。
たとえば「上司のアタマが固い」と相談されたとしましょう。
私はどのような相談であっても、まず意識すべきは「すぐ答を出さない」ことだと考えています。
その理由は「情報が足りない」ことに加え、自分の知識と経験に頼った「狭い了見での答え」になりやすいからです。
具体的にどのようなシチュエーションで上司はどのような言動を取るのか、「アタマが固い」の定義を明らかにせずして答えなど出せないはずです。
また、自分の知識と経験則だけで本当に適切な答が出せるのか、それも定かではありません。
しかし自分の経験を肯定したい、部下の前で良い格好をしたい、こうしたちっぽけなプライドが適切な指導を邪魔していることに気づいていない上司は残念ながら多くの組織に少なからず存在します。
では、相談されたときの適切な思考とコミュニケーション、そしてその順番をどうしたら良いか、先の「上司のアタマが固い」という相談をケースに考えてみましょう。
私がこうした困りごとへの相談に答える場合、まず相手に尋ねるのは「で、それがどう困るのですか?」です。そう問われた相手は、しばしば「え?」という反応を示しますが、「相談の目的」を明確にしないと、時として的外れのアドバイスをしてしまうからです。
「上司のアタマが固い」という相談の場合、それによって「自分のアイデアが却下される」ことが問題なのか、あるいは「組織が保守的になっている」ことが問題なのか、何に問題を感じ、どうしたいのかがはっきりしなければ、どのような答えが望まれているのかがわかりません。
さらに「自分のアイデアが却下される」のが問題だとしても、それが「気分が悪い」のか、それとも「組織の今後の成果が不安」なのかによっても答の方向性は違ってきます。思考のベクトルを揃えて無駄なやりとりをしないためにも、この「で、それがどう困るのですか?」は重要なのです。
そうして方向性が明確になったら「もう少し詳しく説明してもらえますか?」とお願いします。要するに情報収集のフェーズに入ります。
ただ、先の相談の目的を問うた際、「今後のためにも一般論として知っておきたい」という回答が出てくる場合もありますし、様々な場面で同様の傾向が見られる場合もあります(あと、あまり細かく言いたくない場合も)から、「たとえばどんな場面でどんなやり取りでそう感じますか?」のような聞き方をすることも多いです。
この情報収集で重要なのが、「たとえばこんな感じですか?」のような確認の質問、いわゆる「クローズドクエスチョン」を避けることです。
私たちは相手の話しを聞いているうちに、何らかの仮説を思いつくことが多く、そうすると自分の仮説が合っているのかどうかを確認したくなります。
しかし重要なのは情報を集めることですから、それをグッとこらえて「オープンクエスチョン」で聞くことを意識しましょう。
その際「5W2H」、つまり「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように・どのくらいの(時間・距離・コストなど)」を意識すると、重要なことをモレなく聞くことができます。
こうして第一弾の情報収集ができたら、その情報を元に自分なりに考え、答を出していくわけですが、多くの場合は追加の情報収集を「Why(なぜ)」で行います。「なるほど、ではなぜ上司の方はそう言うのですかね?」のように。
これは「問題の原因分析」のフェーズです。自分ひとりで考えるのでなく、相談者にも考えさせる。相談とは共同作業なのです。
こうして問題の原因も徐々に見えてきたら、具体的な解決策を考えるフェーズです。
このフェーズで意識すべきは「複数の答を出すこと」です。「こうしてみたら?」と自分の考えを押しつけるのでなく、オプションを提示し「選ばせる」ことで、相手はそれを実行に移しやすくなるからです。どうしてもひとつしか浮かばなかったら、自分の答えは「たとえば」レベルで伝え、相手にも「考えさせる」やり方があります。先に述べたように、相談は共同作業ですから。
いかがでしょうか。「面倒くさい」と感じた方もいるとは思いますが、真摯に相談に乗るには面倒くさいことを厭わずに行うべきだと思うのです。
ぜひこれを参考に相談を受け、相手との共同作業で困りごとを解決していってください。
最後にひとつだけ。
相談の形を取っていながら、実のところは愚痴や自分の考えを「聞いてほしいだけ」「共感してほしいだけ」という場合もあります。
特に「今日あったこと」の相談の場合にその傾向は強くなりますから、「あ、これは聞いて共感してほしいだけだな」と感じたら、オープンクエスチョンをしながら「満足するまで話しをさせる」ことを意識しましょう。
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