ピックアップレポート
2025年03月11日
岡田正大「未来を創るサステナブル経営:持続可能性を競争優位へ」
2030年の達成を狙いとして国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」によって、サステナブル(持続可能性)という概念は一般社会にも広く知られるようになりました。社会課題を解決しながら成長を目指すサステナブル経営は多くの企業にとって喫緊の経営課題となっています。
今年度新しく開講する『サステナブル経営―攻めのCSV戦略で挑む』の講師を担当いただく岡田正大教授に、サステナビリティの原点と潮流、そして企業が外部環境変化を成長の源泉へと昇華させるためのアプローチについてお話しいただきました。
サステナビリティの起源とトレンド
サステナビリティ(持続可能性)とは本来、環境だけではなく「環境・社会・経済」の3要素が調和しながら長期的に存続可能な状態が維持されることを指します。
1960年代以降、主に先進国企業の経済活動による地球環境悪化が顕著になり、1970年代には国際会議で環境と開発の両立が課題として採りあげられるようになりました。そして今から約40年前の1987年に、国連の環境と開発に関する世界委員会(WCED)が「持続可能な開発(Sustainable Development)」を提唱し、それは「将来世代が彼ら自身のニーズを満たす能力を犠牲にすることなく、現世代のニーズを満たす経済発展」であると定義しました。これがサステナビリティという言葉の起源の一つとされています。この概念は、環境と開発を互いに反するものではなく共存し得るものとしてとらえ、環境保全を考慮した節度ある開発が重要であるという考えに立つものです。
その後もサステナビリティの要請は加速し、2006年には国連責任投資原則(PRI)が環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)のESG要素を投資の意思決定に考慮することが要請されました。
象徴的事例は、2019年にビジネスラウンドテーブル(BRT:米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体)が、企業の目的は「すべての利害関係者にとっての価値を創造すること」だと宣言したことです。約50年間、企業の目的を「株主利益の実現」として最優先としてきたBRTの歴史的転換は、これからの企業のあり方を示していると言えます。
日本では2014年ごろから機関投資家にESGを考慮する動きが広がっています。 2020年にスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動原則)の重点項目にESGがとりあげられ、東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コード(上場企業の行動原則)にもサステナビリティに関する言及が増加しました。ESG投資の残高も高い水準で推移しており、実際に投資家がESGを重視していることがわかります。
今後もサステナビリティ情報(非財務情報)の開示範囲は年々拡大していくでしょう。温室効果ガスの排出削減は今や当たり前であり、近年であれば人的資本情報の開示が話題になっています。今後はたとえばビジネスと人権に関する情報開示など、透明化は今後も広がっていくでしょう。こうした日々進行中の背化の動きを知ることがこのプログラムの狙いの最初の一つになります。
環境変化を攻めの姿勢で企業成長の源泉に
外部環境の変化に対して、企業がとる行動は二つに分けられます。
一つは制度理論的アプローチといって、 変化を外圧ととらえ、それに適合しようとする行動です。BRTの声明やSDGs、ESGといった国際機関や金融市場のガイドラインを遵守し、制度に適合することは現在の企業活動を正当化し、競争劣位に陥らないためにも最低限やるべきことですが、あくまでマイナスにならないための受動的な対応に留まります。
もう一つは攻めの行動、外部環境の変化を自社の内部に取り込み、競争力の源泉に昇華させる戦略的アプローチです。戦略ということは、競争を勝ち抜き、企業の持続的成長を実現することが目標となります。これは、環境・社会の課題を解決しながら利益を上げる、マイケル・ポーター教授の提唱したCSV(Creating Shared Value)戦略そのものです。
サステナビリティ重視のトレンドを企業内部に取り込むということは、これまで市場の成長機会から経済的利益のみをゴールに事業プランを描いていた時代から、企業活動の持つ社会性や環境への正負双方のインパクトなどを当初から意識しながら事業計画を立てることを意味します。
これまでにあまり経験のない論理でビジネスにアプローチするには習熟が必要であり、それが本プログラムの2つ目の大きな狙いです。社会や環境の課題解決がどうマネタイズできるのか、逆に経済的利益の大きなある事業の社会性を高めるにはどんな工夫が必要か。この両方の方向性を参加者の皆さんと考えていきます。
サステナブル経営を実現する競争優位とは(具体的進め方)
どのような社会・環境の課題の、何に注目したらよいのか。サステナブル経営を実現する自社独自の強みはどうやって見つければよいのか。
慶應MCCで新しく開講する『サステナブル経営』プログラムでは、サステナビリティに「対応」するのではなく積極的に「実現」する経営のために必要な知識、価値観、感受性をさまざまな方法で体得します。
具体的には、サステナブル経営とは何か、それは戦略上どのような意味を持つのかといった基本を押さえたうえで、ケースメソッドで成功要因の分析や意思決定のトレーニングを行います。またCSVのロジックを活用したワークショップで他者と議論しながら、短中期の利益にも結びつき得る骨太なビジネスモデルを目指します。そして、サステナビリティ重視のトレンドに至った国際情勢や制度的枠組みといったバックグラウンドを理解し、サステナブル経営の実践者から最前線の知見を得るとともに、実行に伴う人や組織の課題について議論します。こうしたインプットを踏まえて、最終的には自社のサステナビリティを定義し、戦略を構築することを目指します。
プログラム全体を通して、サステナビリティとは「誰にとっての、何の持続性なのか」を考え続けます。どういう理念、志を持ち、どのような価値を追い求め、何を実現したいのかは企業の数だけあります。長期の視点に立って、参加者一人一人の独自性を活かしながら、経営の基盤となる理念や価値観を育むことで、自社のサステナブル経営における競争優位が見えてくるはずです。
感受性を高め、磨くことで人も組織も成長する
慶應MCCが開催している公開プログラムの良いところに、他者との交流によって、相対的に自分を知り、自分の価値観に刺激を与えられる、ということがあります。
人は誰しもバイアス(偏見や先入観)を持っています。バイアスは無意識ゆえに自分では気づきにくく、完全に無くすことはできませんが、自分とは異なる思考のロジック、判断基準を持つ他者とのディスカッションやワークを通してより中立的な立場で自分のバイアスを客観視できます。そうして自分の視野を広げ、視座を高め、視点を変えることで、感受性を高めることができます。特に、サステナブル経営のようなチャレンジングな領域に挑む際には、他者と学ぶことは大きなサポートとなるでしょう。
戦略の転換には、自身の能動的な行動や発想の転換が欠かせません。参加者には世界の潮流に対応するだけでなく、将来を見据えた目線、感性と自社の競争力に取り込む能動的かつ戦略的な思考を身につけてほしいと思っています。ぜひご参加ください。
岡田 正大(おかだ・まさひろ)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 ビジネス・スクール教授
昭和60年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。(株)本田技研工業を経て、平成5年慶應義塾大学経営学修士(MBA)。Arthur D. Little(Japan)を経て、米国シリコンバレーのMuse Associatesに参画。平成11年オハイオ州立大学経営学Ph.D.を取得。同年、慶應義塾大学大学院経営管理研究科専任講師、平成14年助教授・准教授を経て平成25年10月より現職。
◎担当プログラム◎
サステナブル経営-攻めのCSV戦略で挑む
経営戦略-イノベーションと競争戦略
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