今月の1冊
2025年03月11日
真船 佳奈著『令和妊婦、孤高のさけび! 頼りになるのはスマホだけ?!』『正しいお母さんってなんですか!?「ちゃんとしなきゃ」が止まらない! 今日も子育て迷走中』
今回私が紹介するのは、育児マンガです。と言うと、自分は関心がないなあと感じる方もいらっしゃると思います。
私は目下育児中の当事者なので共感することが多かったのですが、「知らなかった世界を知って、想像力が豊かになる、他者への接し方が変わる」という点において、すべての方におすすめしたいと思います。出産や育児のリアルを知らなかった、昔の自分に読ませたい2冊でもあります。
著者は、テレビ東京に勤めながらマンガ家としても活躍する真船佳奈さん。
コロナ禍という特殊な状況で妊娠・出産・育児を経験し、その過程を包み隠さず、ギャグ満載のマンガとして描いています。
「親知らずを抜く話」はよく聞くのに、妊娠・出産の話はなぜ語られにくいのか?
「親知らずを抜く」となると、経験者から「しびれが残った」「腫れた」「痛かった」と、まるで脅すように語られることはありませんか?
でも、妊娠・出産・子育ての話になるとどうでしょう。
「大変だけど、我が子の顔を見れば、それも吹っ飛ぶよ」と微笑む人は多くても、そのリアルについてはあまり語られません。
妊娠初期の体調不良、出産の苦労、産後の身体の変化、育児の過酷さが大変であろうことは多くの人が認識していても、「具体的にどう大変なのか・どのくらい大変なのか」を知る機会はあまりありません。
こう書くと、さぞ重苦しい内容なのでは…と思いきやこのマンガ、とにかく笑えます。
「そうそう!」と共感できる部分もあれば、「こういうこともあるのか」と学びになる部分も。真船さんのユーモラスな語り口と独特な比喩表現のおかげで、まるでジェットコースターのように一気に読んでしまいました。
「こんなにもリアルを言語化してくれてありがとう」――それが私の読後の感想です。
子育てをしていると、自分の体験を振り返ることも、それを言葉にすることもできないまま日々が過ぎていきます。そんななかで、「自分が感じていたこと」を鮮やかに表現してくれたことに、ただただ感謝したくなりました。
それと同時に、「お母さんなんだから」「自分が望んだことだから」「みんなそうしてきたから」そうやって封印してきた気持ちや経験が描かれているのを見て、「言ってもいいんだ」と心が軽くなりました。「こうやって親になっていくんだな」そこに、「一人じゃないよ」と言ってくれているようで、嬉しくなったのです。
令和の子育ては、何が大変なのか?
いつの時代も、決して楽な子育てはなかったと思います。昭和ゆえ・平成ゆえの大変があったはずで、同じように令和には令和の大変さがあります。
今、何に悩んでいるのか――『ただはは』ではそんな側面が紹介されています。
令和の子育ての最大の特徴は「子どもの数が少ない」こと。
2024年の日本の出生数は72万人。これは過去最少で、将来推計よりも15年も早くこの数字に到達しました。ちなみに、私が生まれた頃の出生数は約120万人。この数十年で、出生数は6割にまで減少しています。
子どもが少なくなると、何が大変なのか?
当事者以外の人たちは、子どもを目にする・接する機会が減り、「子どもとは(泣くとか騒ぐとか)そういう生き物である」といった経験を得にくくなります。すると、極端な例を出すと、電車内で泣いている乳児に対して「大人の振る舞い」を要求する大人が現われます。親もセットですから、子連れへの視線が厳しくなることもしばしば感じます。
そのうえ、違った角度からは、「少ない子どもにすべてのリソースを割いて、親が立派に育て上げるべき」というプレッシャーが高まっているとも思うのです。そういった葛藤と、溢れかえる情報に翻弄する真船さんの姿が、自分に重なりました。
「お母さんにはお母さんの人生がある」
「理想の母親像」とは何でしょうか?
SNSには「完璧な子育て」を実践している(ように見える)投稿が流れ、「理想の親」に対して自分はちゃんとできていないのではと不安になることもありました。そして、その裏にはいつも、「お母さんだから、子どものために自分のことはあきらめなきゃいけない」という気持ちがありました。
けれど、「お母さんにはお母さんの人生がある。子どもには子どもの人生がある。」
この2冊を通して、真船さんの奮闘する姿を読むうちに、私自身の考え方もこう変わりました。そう考えると気持ちが楽になります。
楽しく、きちんと、お母さんをやっている人でなければダメ、という思い込みのなかで苦しんでいた自分には、「こんなお母さんがいてもいいのかも」という気持ちが持て、少し楽になりました。
それと同時に、この考え方は、「子どもを産むのが怖い」「今のまま仕事を続けられるか不安」と思う人にとっても救われるかもしれないと思います。
「知る」ことで、少しだけ歩み寄れるかもしれない
令和の子育ては、環境の変化に対して、社会の意識のギャップが大きく、それが子育てをする人にとってハードルになっていることがあります。
たとえば、育児と仕事の両立のなかで、思いがけない困りごとが発生することは珍しくありません。そんなとき、「共感を得られなくても、せめて状況だけでも理解してもらえたら…」 と思うことがあります。これは育児に限らず、介護や病気、さまざまなライフイベントや個人の特性にも共通することかもしれません。
経験したことがある人なら何となく想像がつくことも、まったく経験がない人には理解が難しい。かつての私は、育休を取る同僚や、子どもの体調不良で急に欠勤する人に対し、「おめでとう!」「お大事にね」と表向きは温かい言葉をかけながらも、内心では「仕事が増えてしまった…」と不満に思うことがありました。
それは、妊娠・出産・子育てのリアルがわからなかったからです。
知る機会がなければ、理解は深まらない。
理解が深まらなければ、職場や社会の体制も変わらない。
その結果、不満や対立が生まれたり、逆に必要以上に気を使いすぎてしまうこともあります。
「リアルを知ろうとする人がいてくれる」それだけで、目の前の問題に前向きに取り組めるようになることもあると思うのです。なぜなら、人生で直面する課題の多くは個人の努力だけで乗り越えられるものではなく、周囲の理解や制度の充実が不可欠だからです。
子育て中の人には、「こんなお母さんがいてもいいんだ」と安心できる本に。
これから子どもを持つことを考えている人には、「こんな世界もあるのか」と気づく本に。
そして、子育ての予定がない・卒業した人にも、「知らなかった世界」を知るきっかけになる本だと思います。
とはいえ、そんなに深く考えずとも、何より、笑えること間違いなし!
私はたびたびページを開いて、「そうそう!」と頷いたり、大笑いしながら、元気をもらっています。ぜひ、多くの方に手に取ってもらえたら嬉しいです。
(米田)
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