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慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

私をつくった一冊

2025年04月15日

平野 昭(音楽評論家、静岡文化芸術大学名誉教授、日本ベートーヴェンクライス代表)

慶應MCCにご登壇いただいている先生に、影響を受けた・大切にしている一冊をお伺いします。講師プロフィールとはちょっと違った角度から先生方をご紹介します。


1.私をつくった一冊をご紹介ください

ボクの音楽武者修行
小澤征爾 注
音楽之友社(1962年)、新潮文庫(2002年)

2.その本には、いつ、どのように出会いましたか?

私が中学1年生(1962年)の冬休み前にピアノを習っていた先生から「ひらの君、この本を読んでみなさい、すごい若者の実話だよ、武者修行って題しているけど、冒険談だよ。夢に向かってまっしぐらに突き進むすごいやつだよ、小澤征爾っていう若い指揮者の3年間の外国修行の本だよ」とピアノ先生が興奮気味に貸してくださった一冊です。

3.どのような内容ですか?

1959年からの3年間のヨーロッパとアメリカ修行のドキュメントで、外国留学など夢の時代に多くの人々の経済的支援を受けて、富士重工から条件付き(音楽修行の日本人であることをアピールするためにギターを背負って、日の丸をつけて走ること)でスクーターを貸与され、神戸港から客船ならぬ貨物船に乗船させてもらってパリに上陸。申し込み期限が過ぎていた第9回ブザンソン国際指揮者コンクールに、アメリカ大使館の援助で出場し、短期間の猛勉強で第1位優勝という快挙によりカラヤン、ミュンシュ、バーンスタインらの指導をうけることになって、欧米で最も注目される若手指揮者となって帰国するまでのワクワクドキドキ続きのドキュメント。

4.それは先生にとってどんな出会いでしたか?

中学生の時には「小澤征爾ってすごい、かっこいい。外国に行きたい」「小澤征爾の指揮する演奏を聴きたい」という強い印象だった。高校、大学時代には「小澤征爾の努力と勉強、探求心、音楽への熱い情熱は半端ではないと理解」。ただ、20代半ばの青年の純粋な情熱と人への思いやり、家族愛等々で人間オザワセイジのファンになりました。

5.この作品をおすすめするとしたら?

一切、音楽の難しい話や理論はありません。ひとつの夢や目標に向かって一心不乱に突き進む青年のエネルギーのすばらしさを、思い出させてくれて、生きる力を与えてくれるような気がします。

平野 昭

平野 昭(ひらの・あきら)

  • 音楽評論家
  • 静岡文化芸術大学名誉教授
  • 日本ベートーヴェンクライス代表

登壇プログラム

1949年横浜生まれ。武蔵野音楽大学大学院音楽学専攻修了。研究領域は西洋音楽史と音楽美学。主として1700~1949年までのドイツ圏の作曲家と作品研究、J.S.バッハからR.シュトラウスまで。尚美学園短大助教授、沖縄県立藝術大学教授、静岡文化芸術大学教授、慶應義塾大学教授を歴任、この間東京藝術大学、国立音楽大学、東京音楽大学、桐朋学園大学、京都市立芸術大学、愛知県立芸術大学、成城学園大学、立教大学、横浜市立大学等の非常勤講師も勤める。論文にはシューベルトのピアノ・ソナタ論、ブルックナーの交響曲論、ベートーヴェンのさまざまな作品論等多数。
所属学会:日本音楽学会・国際音楽学会・18世紀学会・三田芸術学会・三田哲学会各会員。日本ベートーヴェンクライス代表。三田芸術学会会長。
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