KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2017年12月11日

究極のイノベーションとは路線転換である 石川康晴さん

photo_instructor_902.jpg「ヒマラヤほどの 消しゴムひとつ 楽しいことを たくさんしたい」

女優、宮崎あおいが、強そうな意思をにじませながら、歌いながら、笑いながら歩く。
「あした、何着て生きていく?」
– earth music&ecology –

視聴者に与えられる情報は、それだけだった。テレビCMを観ただけでは、何かわからないので人々は「宮崎あおい 歌」というワードで検索した。
「イノベーションは路線転換である」石川康晴氏は言う。
2010年にファッション誌からテレビCMへとPR手法の転換をすることで、earth music&ecologyの名前が一躍有名になった。現在、20代~30代前半の認知度は87%である。


ストライプインターナショナルは、今までに数多くの路線転換を遂げてきた。それまでの成功体験を捨てて、新しいことができるかどうかが成功の秘訣だという。
1.PR手法の転換
2.労働環境の転換
3.大型店舗への転換
4.アパレルからライフスタイルへ
5.メーカーからプラットフォーマーへ
6.社名変更へ
以上のような路線転換を、ストライプインターナショナルは遂げてきた。ここでは、2.労働環境の転換と、4.アパレルからライフスタイルへ、の2点に絞って紹介していく。労働環境の転換は、日本政府を中心に「働き方改革」を推し進めている現在、労働環境の転換はどの企業においても役に立つ。そして、UberやAirbnbなどのシェアリングエコノミーが台頭してきている時代、斜陽状態であるアパレル業界が、人々の生活形態(ライフスタイル)を変化させようとしているのがとても面白いと思ったからだ。

ブラック企業からホワイト企業へ

2011年、ストライプインターナショナル(旧クロスカンパニー)は「ホワイト企業宣言」をした。アパレル業界に詳しくない私ですら、「earth music&ecology = ブラック企業」という噂は耳にしていたが、講演で自ら「ブラック企業」であったということを聞けるとは思わなかった。
 
労働環境を転換するために、まず「22時に帰ろう」というメッセージを経営者自らが伝えた。(22時でもだいぶ遅いが…)
24時までの残業(!)を21時に変更するために、増員をした。
21時から20時までに残業時間を減らすために、ITを導入し、棚卸やレジ閉めの時間を大幅に短縮させた。
20時から19時に短縮させた際には「ストライプマトリックス」を使用した。縦軸に時間、横軸に利益を書き、9つのマスに分け、そこに業務を入れて、効率の悪いものを排除していった。つまり、時間がかかって利益の少ないものをやめて、時間をかけなくても利益を増やすことができる業務を残し、生産性が上がるようにした。
19時から18時定時に退社するために会議の時間を50%カットした。
ここまでくるのに4年間かかった。働く時間を減らしたが、利益を上げることができた。労働環境を転換することで、少ないインプットでより多くの収穫を得ることができたのだ。それだけではない。離職率は減り、働きやすくなった環境で女性の管理職が30%から53%に増加した。多くの企業は外向けに「良い社風」をアピールするが、内実が伴っていないとすぐにばれる。若者はSNSで会社の不満をつぶやく。本当に「良い社風」になってこそ、発展を遂げられると石川氏はいう。

メーカーからプラットフォーマーへ

2015年「メチャカリ」を立ち上げた。めちゃめちゃ洋服が借りられるファッションレンタルアプリだ。ストライプインターナショナルは「社会の風景を変えたい」という。例えば、買ったセーターに借りたスカートを合わせて街を歩く人がいる。洋服は買って着るものではなく、借りて着るものにする。洋服を製造している会社が、そのレンタルもする。Virgin RecordやTower Record がTSUTAYAをやるようなもので、自分たちを自ら壊していくようなものだった。だが、前記のレコード会社は自らを壊すような事業を展開できなかったから、現在では落ち込みぎみである。「社会が求めているなら、自分たちを壊しに行くことも辞さない」(この言葉好き)のがストライプインターナショナルのイノベーションだ。
欅坂46をテレビCMに起用した。キャッチコピーは「ファッションもサブスクへ」。意味不明すぎだろ。面白い結果が生まれた。当社で一度も買ったことがない人が顧客になった。7割のお客さんが一度も購入履歴がなく、3割がヘビーユーザーだった。この現象を「洋服から離れた人が戻ってきた」と石川氏は考えた。なんらかの理由でファッションから離れた人が、レンタルでファッションを楽しむことをもう一度しはじめた。月額5800円。1回で3点の洋服が借りられる。冬なら毎日違うコートで出勤、通学ができる。1~2回レンタルした服は50%オフで、ストライプインターナショナルのユーズド(中古)で販売する。このレンタルと中古の仕組みで1つの洋服に対して、2人のお客さんがお金を支払ってくれることになる。ユーザーは現在9,500人、目標は11,000人だ。
石川氏が考えるイノベーションは一貫して「路線転換」である。ここでは、その一部しか紹介できなかった。ただ私なりの解釈では、「既存のものから、少しずらしたような転換」であった。そして、斜陽といわれるアパレル業界だからこそ、私たちは学べるものがある。
マーケティングではターゲットを絞ることが善しとされている。しかし、earth music&ecology は全世代をターゲットとするため宮崎あおいに加えて、広瀬すずと鈴木京香をCMキャラクターに起用した。既存のもの、凝り固まった考え方からどこかずれている。そこがいい。
(ほり屋飯盛)

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