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夕学レポート

2008年11月12日

「オバマ氏は100日間が勝負!」  藤原帰一さん

「なぜ、アメリカ人は“Change”という言葉にあそこまで盛り上がるのか?」
多くの日本人が、米大統領選挙の報道を見る度に、そう感じていたのではないでしょうか。
藤原先生は、そんな疑問を見透かしたように、オバマへの熱狂=変革待望論の背景にある米国民の鬱屈を解説することから講演をはじめました。
「狂王ブッシュによる暗黒の八年を終えて、ようやく米国が変わる」
オバマに熱狂する人々が抱く思いを、藤原先生はそう表現しました。
政治家も軍幹部も、誰もやりたくはなかったイラク戦争への突入と泥沼化。日本以外とは壊滅に近いほど荒れてしまった国際関係。
「こんな米国は恥ずかしい。もう嫌だ」
ブッシュ政権末期の米国には、そんな鬱屈した感情のマグマが充満していたそうです。
そこに現れた多様性の象徴のような存在であるバラク・オバマ氏。
彼が訴える「ひとつのアメリカ」への希求は、アメリカ人の心の空白をしっかりと捉まえた。
オバマへの熱狂は、そのように解釈できるといいます。


「とはいえ、オバマ氏のこれからの道行きは、限りなく暗い」
藤原先生は、あえて水を差すように分析を加えます。
藤原先生によれば、建国以来の米国の政治展開を振り返ってみると、3度の「政党地図のリ・アライアメント(再編)」があったと言えるそうです。
1)南北戦争を経て共和党が主流を握った時代
共和党のリンカーンは、東部財界やカリフォルニアの支持を受けて南北戦争を勝ち抜きました。この結果、共和党は開明的な東部の財界を基盤とし、民主党は南部の保守層を押さえる、という現代とは、かなり異なった政党地図が定まり、共和党が優位を占める時代が続きました。
2)ニューディール政策の成功と民主党優位の時代
民主党のローズベルトがニューディール政策で大恐慌を乗り切ったことで、2度目のリ・アライアメントが起きました。この結果、民主党が移民や労組へ支持基盤を広げ、勢力図は一変します。
3)レーガンの登場と共和党の時代
レーガンが推進した「小さな政府」と新自由主義的な経済政策は米国経済を活性化させ、3度目のリ・アライアメントが実現しました。
共和党は東部財界に加えて、アメリカの伝統的価値観を重んじる中南部の保守層の心を掴み、民主党は、東と西の沿岸部の都市生活者に支えられるという現在の政党地図が固定することになります。趨勢としては共和党が優位に立ちました。
「オバマの登場は、第四のリ・アライアメントではない」
上記の文脈に位置づけて、オバマ登場の意味を過大評価しがちな論評に対して、藤原先生はあくまでも冷静です。
今回の選挙結果を見てみると、ブッシュ政権後半以降の民主党優勢の基調の上にあるものの、少数の州が転換しただけで、政党地図そのものは変わっていないと言えるそうです。
表層での熱狂振りとは裏腹に政党地図の深層は変わっていない。
2006年の中間選挙で民主党が優位を占めたことで起きた「大統領vs議会の対立」が生む不安定さを望まない東部財界を中心とした勢力が、勝ち馬に乗る形でオバマ支持に動いた結果に過ぎないのではないか。
藤原先生の見立ては、このようなものです。
「大統領となるオバマ氏が取り得る政策選択の打ち手も、実は限られている」
藤原先生はオバマ政権をこのように占います。
未曾有の金融危機は、金融機関の救済という形で収束させる以外に方法はないだろう。その結果、オバマに期待されている教育や社会福祉に回す財源はほとんど残されることはない。
イラク・アフガニスタンへの派兵は当分続けざるを得ないだろう。14万人の兵士を両地域に投入する代償として、米国は、他地域の紛争や戦争に介入する余力を失う状況が続く。
いざという時に戦争が出来ない以上、国際関係は協調路線や交渉重視政策しか取るべき道はないだろう。イラン・パキスタン・北朝鮮問題といった難題を、力による解決で突破することはできない。
それは、同盟国との協力体制を維持するという選択肢を取ることに繋がり、かつてのようなアメリカ一国主義・孤立主義は難しい。
つまるとこと、来るべきオバマ政権は、民主党が議会を押さえるという強い政治基盤が生かせるうちに、経済再建を実現しない限り、ブッシュ政権末期の政策を引き継がざるをえない。
藤原先生はそう指摘します。
「100日間が勝負だね」
 
控室では、そこまで踏み込んでオバマ政権の行方を予測されました。
経済を期待される大統領が、経済で失敗すると一気に信頼を失う。100日間で新しい金融秩序への道筋をつけなければ、カーターの二の舞になる可能性もある。とのこと。
「オバマのアメリカ」の前に屹立する山は険しいことは間違いないようです。

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