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夕学レポート

2013年04月16日

現状は1986年に似ている 山崎元さん

photo_instructor_671.jpg「経済誌の記事やオンラインメルマガで注目されて、それをベースに本を書き、テレビで名を売って、講演で稼ぐ。
それが経済評論家のひとつのビジネスモデルだとしたら、自分にはあてはまりませんね」
山崎さんは、控室で穏やかな表情でそう語った。
アベノミクスについて早い時期から肯定的な論評を発表し、市場の反応を先取りするような予想を展開してきた山崎さんには、さぞかし講演の依頼も多いかと思ったら、そうでもないようだ。
「経済講演のスポンサーは金融機関が多いと思いますが、わたしは彼らに嫌われていますからね」
・現在の投資信託にはろくなものがない
・生命保険は不要、特に医療保険は入らない方がいい
といった、歯に衣着せぬ刺激的発言をしてきたから、というのが本人の弁であった。
温厚で紳士的ではあるけれど、自分の信じたことは一歩も引かないし、言うべきことは遠慮なく言う。
それが山崎元さんなのかもしれない。
さて、きょうのお話の中心は、「アベノミクスはなせ効いたのか」というロジックの解説であった。
アベノミクス第一幕の演目は、「インフレ目標付き金融緩和策」であったが、それは概ね適切かつ必要な政策であった、というのが山崎さんの意見である。
成功要因は、インフレ「期待」への働きかけが効いたということ。言い方を変えれば、「働きかけの本気度」を市場が信じたということであろう。
2%と言う高いインフレ目標(過去20年間に2%を越えたのは、たった1年だけ)
筋金入りのインフレ目標論者が日銀総裁、副総裁になったこと
2%を達成できなければ辞任という発言を岩田副総裁が明言したこと
等々の効果によって「こいつは本気だな」と市場が信じたということであろう。


かといって、本当にインフレ目標が達成できると信じているわけではない。(このあたりが我々一般人には理解しにくいとこであるが)
市場が信じたのは、2%になるまで、つまりは最低でも数年間は大胆な金融緩和政策が継続されるという「金融政策の見通し」である。
つまり、金融政策の先がはっきりと見通せたので、その方向で安心をして動けると確信したということ。
金融緩和の継続→金利低下の予想→円売り→円安という図式通りに、市場は動いた。また株式市場が円安に反応するのが近年のパターンとして見えていた。
その通りに、今回も円安=株高が実現した。
このあたりは、名目と実質、言葉と本音を読み合う、微妙な心理戦のようだ。
山崎さんは、黒田日銀総裁の発言に隠された深謀遠慮も推し量る。
黒田氏は円安のメド、株価のメドをどのあたりに置いているのか、何を指標にアクセルを踏み続けるのか、ということである。
円安のメドは100円~110円のゾーン(リーマンショック前の水準)
為替に相場観は、米国や欧州がどこまで許容できるかに影響される。
FRB議長の発言をみても、リーマンショック前の水準が米国や欧州の許容範囲ではないかと読んでいるのではないかと見ている。
では株価はどうか。
4/4の金融緩和策発表の際に発言にメッセージが隠されているという。
http://diamond.jp/articles/-/34443
まだまだいくらかまでは読み切れないけれど、現在(1300円台)はまだ低いと考えていることは間違いないという推測である。
アベノミクスは実質的な円安・株高ターゲット政策であり、黒田総裁自身が、初期のねらいはインフレ目標そのものではなく円安と株価上昇と考えている。そして、いまのところ上手くいっている。
というのが山崎さんの総合的な見立てである。
現在も、アベノミクスに否定的な論者は多数いる。
否定の根拠はふたつ。
ひとつは、制御不能な国債暴落が起きて、国債を大量保有する金融機関が経営危機に陥るというリスクの存在である。
実際に、現在も長期債利回りは乱高下して落ち着きがない。
もうひとつは、過度の金融緩和がバブルを引き起こしかねない、というものだ。
長期金利の乱高下に対しての山崎さんの見立ては冷静である。
現在の長期金利の乱高下はやがて低位安定に落ち着くだろう。なぜなら、アベノミクスによって、日銀の国債購入余力は十二分に備わっている。
ただし、物価と成長率が想定通りに上昇したら、つまりアベノミクスが成功したあかつきには、国債利回りは3~4%まで上昇するだろう。
その場合、過度に国債に比重をおいた運用をし、リスクヘッジをしていない中小銀行が経営危機に陥る可能性はある。
また、いまはまだバブルではないが、バブルが起きやすい条件が備わっていることは間違いない。1986年頃によく似ているという。
バブルが起きてもまったく不思議ではない。
(※ちなみに、株価の妥当性を推量するための山崎式判断基準は、たいへん便利で分かりやすいのでチェックされることをおすすめしたい)
詳細はこのブログで。
https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/opinion/yamazaki/yamazaki_20130222.html
山崎さんのおっしゃりたいのは、バブルの発生と崩壊も不可避なものと受け止めて、そういうリスクを織り込んだうえで、個人が適切な資産防衛&運用のリテラシーを持つことの重要性だと認識した。
この領域が専門である山崎さんは、時間を大幅延長して、このあたりも詳しく解説してくれたが、すでに紙面が長くなりすぎた。
変化の時代の資産運用戦略について触れるのは、4/24の橘玲さんの夕学に譲ることにしたい。

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