夕学レポート
2008年04月28日
21世紀型グローバリゼーションへの対応 野口悠紀雄さん
1990年代の日本は、バブル崩壊とその後に続いた「失われた10年or15年」の苦難に喘いだ時代でした。
同じ時期、「世界ではグローバリゼーションの大転換が起きていた」と野口先生は言います。
「形のあるモノが国境を越える」20世紀型グローバリゼーションから
「形のないモノ(情報・お金)が国境を越える」21世紀型グローバリゼーションへの
パラダイムチェンジです。
日本は負の遺産を整理し、ようやく水面下に顔を出してホッとしているけれど、世界の風景が一変していることに、いまだ気づいていないのではないか。
野口先生は、その事に強い警鐘を鳴らしています。
きょうの夕学では、野口先生はまず、日本の世界でのポジションを確認することからはじめました。
20世紀型グローバリゼーションの優等生だった日本は、90年代初頭まで、一人あたりGDPでは、OECD加盟国で第2位にありました。
それが2005年時点では、第14位と低迷し、下降のトレンドは更に続きそうな気配です。
これに対して、21世紀型グローバリゼーションの優等生、イギリスとアイルランドは、いずれも10ポイント以上順位を上げ、日本のはるか上を行きます。
イギリスの活況については、夕学では、チャールズ・レイクさんが成功モデルとして、寺島実朗さんが、ああなってはならないという他山の石として取り上げられたのが印象的でしたが、野口先生のスタンスは前者です。
アイルランドは、かつては産業革命を起こせずに農業国にとどまっている欧州の貧国の代表であったものが、IT大国として、世界有数の豊かな国に数えられているとのこと。
日本はなぜ、イギリスやアイルランドに先を越されてしまったのでしょうか。
その理由を、野口先生は、昨年の夏以降に起きた株価急落減少を題材に説明されました。
日本では、「民間企業のリストラ効果と小泉構造改革の成果で景気を回復した」と言われていましたが、野口先生はこの説を真っ向から否定します。
日本は、円安バブルに酔いしれ、バブル崩壊とともに現実の姿を現しつつあるという説です。
度重なる金融緩和政策や、為替介入により、市場の調整機能を抑圧してきた結果、安い円で調達し、海外に投資するという投機的取引を増大させ、その結果円安バブルが起きました。
この恩恵で製造業を中心とする輸出産業が、かりそめの回復に酔いうことができましたが、サブプライムローン問題に端を発する投機資金の逆流で、冷水を浴びるように酔いが冷め、株式市場は冷静に日本の現実を評価しはじめたに過ぎないとのこと。
20世紀型グローバリゼーションの主役であった製造業中心に産業構造を温存させたままでは、日本の復活はあり得ない。野口先生はそう断言します。
このあたりは2年前の野口先生の予測がその通りになりました。
さて、グローバリゼーションの大転換は、なぜ起きたのでしょうか。
野口先生は、その要因として二つあげてくれました。
1.冷戦の終結で、社会主義経済の安価で大量な労働力が使えるようになったこと。これにより、製造業の競争条件が劇的に変わりました。
2.IT革命により、情報通信分野で飛躍的な技術進歩が起きたこと。
この30年間の飛行機の進歩と海外通信方法の進歩を比較すると進歩の度合いの違いがわかります。
では、21世紀型グローバリゼーションの成功モデルはどのようなものでしょうか。
野口先生は、こちらも二つの道を示してくれました。
1.オンラインアウトソーシング
ネットを通じて専門技能や特定職能を請け負うビジネス。インドやアイルランド型
2.金融を中心とした資本開国 イギリス型
日本は、言語の特殊性ゆえに前者の選択肢を取ることができません。金融を中心とした資本開国策しかありえない、というのが野口先生の持論です。
日本人の知的能力水準の高さは、必ずや金融業でも発揮されるはずだ。現状を変えることに恐れず、政府や会社に頼らずに未来を切り開いてゆく勇気を持つべきだ
野口先生は、そう言います。
2月に夕学に登壇された、寺島実朗さんは、「日本を豊かにするために、新しいものづくり産業を確立する必要がある」と指摘されました。
ただ、具体的にどんな産業なのかが見えてはきませんでした。
野口先生の主張には、寺島さんのような日本人の琴線に触れるウェットな共感はもたれないでしょう。
ただ、イギリスに代表される具体的な成功モデルが存在しています。
先はまったく見えないけれど、心地よい風が吹く方に向かうのか。
多少の寒風を覚悟しても、はっきりと道筋が見えている道を進むのか。
いずれにしろ茨の道であることに変わりはありません。
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