夕学レポート
2013年07月31日
キーエンスが500社あれば日本は変わる 延岡健太郎さん
日本の「ものづくり」の危機が叫ばれるようになって久しい。
その危機感は、いつもひとつの結論に行き着く。
日本のものづくり能力はいまも素晴らしい。しかし優れたものづくりだけでは勝てない。ものづくりに加えて、新しい価値をつくりこまねばならない。
新しい価値に関わる、キーワードも流布している。
意味、感動、経験等々
マーケティングでは、「ブランド・エクイティ」「インサイト」「経験的価値」などの概念が語られてきた。
これらはたいへん重要な概念であることは間違いないが、消費財のものづくりでは説得力を持つ一方で、日本の製造業の根幹を支える生産財のものづくりにはピンとこない。
「抽象的過ぎて、よくわからない話」とされてしまう。
製造業の製品開発マネジメントの研究を専門にしてきた延岡先生は、生産財における「価値づくり」を主眼に据えて、独自の定義を掲げている。
価値=営業利益+人件費+研究開発費+その他
・高い営業利益を確保すること
・従業員に十分な給与を支払うこと
・長期的視野に立って必要な研究開発費を投資すること
・その上でたっぷりと法人税・所得税を払うこと
言い換えれば、社会に貢献すること。それが「価値づくり」である。
人件費を削減して利益を確保することや研究開発を犠牲にして短期の利益を追うことは延岡流「価値づくり」と似て非なるアプローチである。
「安く作って高く売る」
端的に言えば、「価値づくり」とはそう言うことだ。
これこそが企業が必要とされている社会貢献の姿でもある。
延岡先生は、「価値づくり」の条件を①持続的な差別化と優位性、②顧客価値・支払意志額の2軸を使って下記のように整理している。
顧客の声に合わせようとするあまり、他社と同じ土俵に立って過当競争に苦しむのでなく、独自性にこだわって過剰スペックの陥穽にはまるのでもない。
二つの条件を両立することでしか「価値づくり」は実現できない。
では、延岡先生の講義に基づいて、二つの条件を実現する道筋を順番に確認しよう。
1.持続的な差別化と優位性の確保
これは「組織能力」を構築することだという。
長期間かけて構築・蓄積された組織的な力を武器にコアな技術を徹底的に鍛え上げていく「積み重ね技術」こそが、日本のものづくりの強みだからだ。
ボストン留学時代から延岡先生の盟友であった東大ものづくり経営研究センター藤本隆宏先生の考え方と同じであろう。
ほとんどの企業はイノベーションによる革新的技術の開発を志向するが、長期的利益に結びつくのは、イノベーションを産み出す母体を鍛えることである。
2.顧客価値の創出
延岡先生の言う顧客価値を理解するには、生産財をイメージした方がよさそうだ。
顧客(企業)が儲かるような提案(技術、ソリューション、使い方などさまざまな)をすること、しかも顧客が気づかないうちに先手を打つこと。
それが顧客価値を上げる唯一の方法だという。
部品であれ、製造機器であれ、それを誰が、どこで、どうやって、何のために使うのかを徹底的に考える。そうすれば提案すべきカンドコロが見えてくる。それをガシッとわしづかみに出来るかどうか。
高収益を続ける生産財メーカーは押し並べてこれが実践できている会社だという。
そのためには市場の大きさに惑わされてはいけないようだ。魅力的な市場には競合も多い。当然利益率は低くならざるをえない。
むしろ利益率が高い商材の市場を拡大していく方がいいという。ここも一般的な戦略論のアプローチとは異なる。
延岡先生が、「価値づくり」が出来ている生産財企業のモデルとして評価するキーエンス社が収める法人税額は400億円。社員一人あたり2千万円に達する。
「キーエンスがあと500社あれば、日本は変わる」
アベノミクスの成長戦略よりも延岡先生のアジテーションの方が説得力があるような気がする。
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