夕学レポート
2011年05月26日
波に乗りながら、波をおこす 阿部秀司さん
「夢に満ちてはいるけれど難しい」それが映画ビジネスであろう。
とりわけ、アニメ以外の「邦画」にそれがあてはまるようだ。
言語と文化の壁があるので、マーケットが国内に限定される。
ハリウッド映画は別格としても、例えばデンマークのような小国でも映画産業が盛んであるのは、最初から5億人のEUマーケットを視野に入れることができるからだ言われている。
競合は激化する一方である。テレビ、ネット、ゲーム、カラオケ、ケータイetc…。娯楽は次々と生まれている。
技術革新は進み(CG・3D)、最新の表現方法を追いかければ巨額の投資が必要になる。
市場は頭打ちで、費用と投資は右肩上がり。どんどん儲かりにくくなっている。
映画業界も、手をこまねいていた訳ではない、時代に適応すべく変化してきた。
コンテンツの二次利用、三次利用モデルを確立し、興行だけでなく、DVD・テレビ放映権までを含めて、製作費を回収しようとしてきた。
テレビ番組を映画化するという手法を見いだし、企画のリスク低減とメディア連動型マーケティング展開でヒットを飛ばした。
制作委員会方式という投資スタイルを作り、リスク分散型の製作方式を産み出した。
近年では、コミックやベストセラー本を原作とすることで、企画リスクを更に抑えようとしている
しかし、いずれも絶対的なモデルではない。失敗もたくさんある。パッケージは売れなくなった。製作委員会の組成も簡単ではない。原作の映画化権利獲得競争は激化する。
映画製作プロデューサーの仕事は、難しくなるばかりといったところか。
阿部秀司さんは、構造的変革期にある映画業界において、新しい波に積極的に乗りながら、自らも波をおこしてきた人である。
きょうの話を聴くと、成功パターンを作りつつも、それに安住せずに、いつも新しい切り口を取り入れるイノベーターであろうとしている方のようである。
例えば、大ヒットした『海猿』は、『踊る大捜査線』と同様にフジテレビとの連動企画パターンでヒットを飛ばしたが、『踊る・・・』とは逆に、映画がテレビになり、もう一度映画にするというやり方を取った。
『ALLWAYS三丁目の夕日』の場合は、「映画を見ない」とされていた団塊の世代をあえて狙って作ったという。見ないのではなく、見たい映画がないだけだ、という信念に依拠していたようだ。
団塊世代で東京生まれの阿部さんには、東京タワーが建ち上がっていく情景を驚きと興奮をもって見上げたという原体験があった。「あの情景をモチーフにした映画なら自分も観たい」それが、企画の出発点であったという。
山﨑貴監督という、稀代のCGテクニシャンと組んだことで、昭和30年代の東京が見事に甦った。
『RAILWAYS』は、”鉄ちゃん”というニッチ層を狙い、島根というローカルにこだわったユニークな低予算映画であった。島根では、県民の十人に一人が観たという画期的な作品になり、映画による地域振興の成功モデルになったという。
しかも、シリーズ化にあたっては、キャスト・設定等をすべて変えて、富山で撮影をするというチャレンジをしている。上手くいけば、シリーズ化の新しい作り方にもあるだろう。
三本とも、シリーズ化という映画ビジネスのゴールデンロードを踏襲しつつも、ひと捻りを加えることで、新奇性が生まれる。
ヒットメーカーたる所以なのかもしれない。
さて、現在四本の新作に関わっているという阿部さん。
中でも注目は、『friends もののけ島のナキ』ではないだろうか。
日本の童話をモチーフにしつつも、山﨑貴監督と組んだ初めてのアニメ作品である。
「これで世界を狙います」と阿部さんは言う。日本のアニメは、ジブリ映画の功績もあって、唯一世界で勝負できる土俵だからだ。
『千と千尋の神隠し』に続いて、世界アカデミー賞長編アニメ映画賞を取ることが出来るのか。
12月17の公開には、是非映画館に足を運んでもらいたい。
他の三本も、いずれも1年以内に公開を予定しているとのこと。
『ALLWAYS三丁目の夕日 64』2012年公開予定>『RAILWAYS 2』2012年公開予定
『ワイルド7』2012年公開予定
どんなイノベーションを仕込んでいるのか楽しみである。
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http://sekigaku.jimdo.com/みんなの-明日への一言-ギャラリー/5月26日-阿部-秀司/
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