2006年09月12日
スキルを”習得する”ということ
こんにちは。桑畑@慶應MCCです。
おかげさまでこのコラムも10回目となりました。
ひとつの節目を迎えたわけですが、この【てらこや】での連載も、実は今回が最終回となります。
とはいえ、これで皆さんとお別れというわけではなく(そしてもちろん私が慶應MCCを辞めるわけでもなく)、場所をブログに移してこれまで以上に情報の発信と、皆さんとのコミュニケーションを行っていきたいと考えています。(ブログの詳細は次回、編集長のいぐさからご紹介させていただきます)
さて、メルマガでのコラムのラストということで、今回はセミナー・研修の講師として、今までそしてこれからも考え続けなければならない、”スキルを学ぶ”ということについてお話ししてみたいと思います。
私はロジカル・シンキングやファシリテーションといった、いわゆる思考・コミュニケーションスキルの講師をしていますが、この”スキル”の習得、そう簡単でありません。受講生からの、「思った以上に難しい」「自分はできていると思っていたのに全然ダメだ」という、悲痛な声もよく耳にします。
では、なぜこうした思考・コミュニケーションスキルの習得は難しいのでしょうか。
“スキル”を辞書で引くと、こう定義されています。
スキル:訓練して身につけた技能。
(三省堂「大辞林 第二版」より)
つまりスキルとは「訓練」によって「身につける」ものなのです。何か知識をアタマで覚えたら身につく(できるようになる)ものではありません。トレーニングの積み重ねによって、”アタマではなくカラダで覚える”もの、であり、習得が「難しい」というより、「時間がかかる」と言った方がより適切かもしれません。
「そんなことはわかってる。でも、たとえば自転車に乗るスキルなんかは、俺は簡単に身につけたよ。それも幼稚園に入る前に」
はい、そこです。その反論に思考・コミュニケーションスキルの習得が難しい理由が隠れているのです。それを今からご説明しましょう。
自転車に乗る(もちろんこれは「補助輪を外して乗れるようになる」という意味です)というスキルが、(個人差こそあれ)ほとんどの人が身につけることができるのは、”それに初めてチャレンジする”からです。真っ白なハンカチを染めるように、ひとつひとつの技術(たとえばバランスの取り方など)がカラダに浸透し、スキルを体得していくのです。
それと比べて思考・コミュニケーションスキルはどうでしょうか。あたりまえの話ですが、我々は生まれてから今まで、ずっと考え、そしてコミュケーションを行っています。そこにはこれまでの蓄積や経験があり、既にハンカチは自分なりの色で染められています。
そしてそれがきれいな色なら良いのですが、往々にして変な色で染められているのです。スキルとして一般的な言葉を使うと、「変なクセがついている」ということです。
この色(クセ)を”落とす”ことからスタートしなければいけないのが、思考・コミュニケーションスキルの習得ですから、その難しさ(習得に要する時間)はご理解いただけるはずです。
我々のよく使う「アタマがカタい」というのも、まさに思考において「変なクセがついてしまった」状態を表現した言葉であり、そのカタさは、壊したり柔らかくしたりする必要があるのです。
ですからスキルは「変なクセのついていないうちに」学ぶのが理想です。私は新入社員研修も行っていますが、近年そこで「ロジカル・シンキングをみっちりやってくれ」とお願いされることが多くなったのも、こうした背景があると考えています。
しかしながら、色があまりついていない若手でないと思考・コミュニケーションスキルが習得できない、ということでは決してありません。適切な訓練(トレーニング)さえつめば、どなたでも、そして今からでもきれいな色に染め直すことは可能です。
私の経験から言えば、ベテランの方が一度コツをつかめば習得スピードは早いとさえ感じています。これは、今まで業務で行ってきた様々な問題解決の経験に、トレーニングの内容やその背景となる理論を照らし合わせることができるからです。そうして豊富な成功/失敗体験を論理的に確認・体系化し、スキルの再構成を行うことができるのは、ベテランの強みと言えます。
では、そんなハードルが高い(しかし誰でも習得が可能)な思考・コミュニケーションスキルを、なぜ我々は(わざわざ)セミナーや研修で学ぶ必要があるのでしょうか。
私は、その理由は2つあると考えています。
ひとつは、我々ビジネススパーソンにとって、この思考・コミュニケーションスキルが仕事の”基盤”となるスキルだという点です。
どのような業種・職種・職位であれ、論理的に「考える」ことができなければ、誤った意思決定を招くとともに、無駄に悩む時間も増えてしまいます。また仕事はひとりでやるものではありませんから、他者の「意見を引き出す」こと、親身になって「聞く」こと、自分の言いたいことを正しく「伝える」ことができなければ、組織として成果を出すのは難しくなります。
まさにこうしたスキルは、業務の生産性を上げるための基本中の基本なのです。
そしてもうひとつが、この思考・コミュニケーションスキルは、セミナーや研修という場を活用することで、効果的・効率的に習得できるという点です。
確かに日常業務を通しても、いわゆるOJTという形でこれらを学ぶことはできます。しかし、お手本とした上司や先輩のスキルが、「変な色がついた」ものだった場合、自分のハンカチも同じような、またはもっと変な色に染まりかねません。そしてそれは年数を経る毎にどんどん落ちにくくなってしまいます。だからその変色したハンカチを「洗濯する」場としてセミナーや研修が必要なのです。
そしてその場には、様々な異なる色のハンカチを持った方が集まります。社内研修でも職種や職位が違えばそうですし、慶應MCCで行っているような公開セミナーであれば、もっとカラフルなハンカチを目にすることでしょう。この様々な”色”を認識することが、様々な”気づき”につながるのです。具体的には「この人のこの考え方は面白い!」とか、「この人の質問の仕方は真似したいなあ」という形で。
また、そうした様々な方と切磋琢磨することができるのも大きいですし、副次効果としての人脈の拡大も、仕事のプラスになるはずです。
しかしここで注意すべきなのは、研修やセミナーを修了しても、「ハンカチの洗濯が完了し、きれいな色に染め上げることができた」わけではない、ということです。
思考・コミュニケーションスキル習得の難しさは前述の通りであり、これは1日2日の集中的な研修や、隔週3時間×6回のセミナーで完璧に身につけることは不可能です。
むしろ重要なのは研修・セミナーの後です。つまり以前よりずいぶんきれいな色になったハンカチに、どうやってまた変な色がつかないようにするか、そしてどのようにしてもっときれいな色にするか……それを心がけなければなりません。今度は実務がトレーニングのケースとなるのです。
また、このトレーニングに終わりはありません。完璧な思考や完璧なコミュニケーションなど存在しませんが、それを目指して試行錯誤を続けていけば、スキルは無限に進化していくのです。私とてまだまだ発展途上。日々受講生の方々から学ばせていただいてますし、研修やセミナーのコンテンツも日々バージョンアップさせています。そして今後とも、皆さんの仕事の基盤となる、思考・コミュニケーションスキル習得のお手伝いをさせていただき、結果として皆さん個人と組織・社会に貢献することを生き甲斐にしていきたいと思います。
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