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ファカルティズ・コラム

2009年04月01日

その評価は『足し算』か『かけ算』か?

ちょっと旬は外してしまいましたが、侍ジャパンのWBC連覇は本当に嬉しいニュースでした。
正直準決勝と決勝の日は仕事にならず、ケータイのワンセグ機能が便利なことを初めて認識しました(笑)
決勝で10回表に2点タイムリーを放ち、それまでの不振から一躍ヒーローになったイチローは、昨日はWBCの疲れからか体調不良でオープン戦途中で帰宅してしまいましたが、メジャー復帰直後のオープン戦でも2安打を放ち、さすがと思わせてくれました。
そのイチローが、2安打を放ったオープン戦直後のインタビューでこう言っていました。
「マリナーズはタレントが揃っているから本来弱いわけがない。WBCの日本との違いは、勝つことに対する前向きさだ」
また、こうも言っています。
「侍ジャパンは、時間をかけていないからこその“儚い”チームならではの一体感があった」
さて、このイチローの発言にある『前向きさ=モチベーション』と『一体感』は、参加国のチーム力を測る上での評価指標になり得るでしょう。
北京オリンピックでの星野ジャパンの惨敗時も、「韓国チームとの差は実力よりもメンタル面」という論調も多かったはずです。
ということで、かなり乱暴ではあるのですが、今回のWBCで決勝トーナメントに残った日本・韓国・アメリカ・ベネズエラを、『実力(個々の選手の能力の平均値)』と上記の『モチベーション(個々の選手の勝ちに対する前向きさの平均値)』『一体感(チームとしてのまとまり)』という3つの指標で評価してみたいと思います。
なお、『実力』は世界最高峰であるMLB選手の数と質および各国国内リーグの格、『モチベーション』と『一体感』はメディアの報道と実際に試合を見た私の主観(笑)で採点します。(だから乱暴だと最初に言い訳したわけです)
また、ここではベネズエラを評価基準としました。
しかしここで考えなくてはならないのが、「チーム力はこの3つの指標の合計点(足し算)になるのか、それともかけ算になるのか?」ということです。

私は「かけ算で評価すべき」と考えました。
なぜならば、「いかに実力があっても、それを出し切れるかどうかはモチベーションや一体感が大きな影響を及ぼす」と考えたからです。
よって、配点も基準であるベネズエラを『実力(A-アビリティ):100』×『モチベーション(M):1』×『一体感(T-チームワーク):1』の100点と置いて、他チームを採点しました。
そして(私の主観バリバリで恐縮ですが)出した評価が以下です。
■ベネズエラ
 →A:100 × M:1.0 × T:1.0 = 100.0
■アメリカ
 →A:150 × M:0.8 × T:0.8 = 096.0
■韓国
 →A:060 × M:1.6 × T:1.3 = 124.8
■日本
 →A:080 × M:1.3 × T:1.2 = 124.8
やはり日本と韓国の決勝は必然だった!
というわざとらしいことを言うつもりはありません(笑)が、私自身は結構納得してしまいました。
ひょっとすると、以前よく言われていたプロ野球における「人気のセ、実力のパ」(「聞いたことない」という方は40歳代以上の人に尋ねてみてください(笑))というのも、実は実力差というよりこのモチベーションや一体感にその要因があったのかもしれません。
さて、このブログがここで終わるわけにはいきません。
そう、評価には『足し算型』とこのような『かけ算型』があるというのが本日のキモです。
入学試験のようなテストは、その多くが『足し算型』評価です。
各教科の総合点で、合否が判定されたりするわけですね。
だから、「英語は苦手だけど得意の数学でカバーする」といった戦略が可能なのです。
しかし、評価はこうした足し算型だけではありません。
WBCの各チームの評価結果は確かに乱暴ですが、チームの総合力は個々の選手の能力の総和ではないことに異論はないはずです。
モチベーションや一体感といった、足し算で出た評価に“かけ合わせる”指標を抜きにしては語れないのです。
我々の仕事で言えば、たとえばプレゼンテーションの評価も、『内容』×『伝え方』のかけ算型でしょう。
どんなに良い提案内容でも、「なぜならば」という論拠にヌケモレがあればプレゼンの相手は決して納得してくれません。
また、プレゼンターの態度が偉そうだったり、資料がわかりにくいものであっても、そのブレゼンテーションの評価はガタ落ちです。
内容が100点満点の提案であったとしても、伝え方が0点であればそのプレゼテーションの評価も0点になってしまうのです。
どんなに良いクルマを作っても、過去のリコール隠しによって失墜した『企業イメージ』で販売に苦労した三菱自動車の例も、顧客のクルマに対する評価は足し算ではなくかけ算であることを表しています。
こうした『かけ算型』評価、私としてももちろん意識しなければなりません。
どんなに役に立つコンテンツをわかりやすく講義したとしても、受講生とのやり取りで少しでも気に障る言い方をしてしまえば、あっという間に「最悪の研修だった」と評価されてしまいますから。
まさに「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」で、講師という仕事は『コンテンツ』と『教え方や場の仕切り方』を足したものに、『人柄(の印象)』がかけ合わされて評価される。
だからといって受講生に気を遣って厳しくやらないのもまた問題で、この仕事もなかなかタイヘンなのです(まあこれは余談ですが・笑)
さて、あなたの仕事の評価はどうでしょうか。
本当は評価を根底から覆してしまう指標がある『かけ算型』なのに、『足し算型』だと勘違いしていませんか?

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