ファカルティズ・コラム
2009年04月10日
就職志望ランキングの考察
多くの報道でご存じの通り、リクルートが8日発表した大学生の就職志望企業ランキングが例年以上に話題になっています。
特徴的なのは、「(1)JR東海・(2)JR東日本・(3)全日空と、交通インフラ企業が上位を占めた」ことと、「トヨタが6位→96位、ソニーが8位→29位と、自動車・電機メーカーの人気が急落した」ことでしょう。
この結果に対してリクルートは、「社会インフラ関連企業は不況下でも業績が堅調なため、昨今の景気悪化で安定志向が強くなった。また、電機・自動車メーカーの人員削減のニュースも学生に活躍の場がないとの印象を与えた」と分析しています。
さて、あなたはこのニュースで何を考えましたか?
「まあ当然だろうな」と思われましたか?
私がこのニュースでまず感じたのは、「なんと情けない結果だ」ということです。
別に人気を落とした電機・自動車メーカーが情けないということではありません。
このような結果を出した『学生達の思考』が情けないと感じたのです。
「潰れない会社、リストラされない会社に入りたい」という安定志向は理解できますが、これから何十年も働く会社を、「潰れない・リストラされない」ということを最優先させて本当に良いのでしょうか。
「やりたいことはないのか? 自分が活かせる分野を考えたのか?」と問いたいのです。
また、「人員削減で活躍の場がない」という考えも疑問です。
この不況が永遠に続くわけもなく、また入社してすぐ活躍できるわけもありません。
そうであれば、今厳しい時期に入っておけば、景気が回復した時には中堅クラスとして最も力が発揮できる時期になっているとなぜ考えないのでしょう。
あまりにも短期志向で、中長期的な視野が欠けていると言わざるをえません。
正直、私は安定志向以上に学生達のこの短期志向が、我が国の未来を考えた時に心配です。
ところで、トヨタが96位に転落というインパクトのため、このリクルートのランキングばかりがマスメディアでは取り上げられていますが、実は他にも同様の就職希望企業のランキングが存在します。
リクルートのリクナビと並ぶ就職情報サイトであるマイナビを運営する毎日コミュニケーションズや、東洋経済やダイヤモンドでも独自のランキングを発表しています。
これがリクルートのランキングとまた違うのです。
たとえば毎日コミュニケーションズでは、リクルートのような総合ランキングでなく文系・理系に分けて集計していますが、そこではリクルートほどの激変は見られません。
文系では「(1)JTB(2)資生堂(3)全日空」の上位3社は昨年と全く同じ。理系にしても確かにトヨタの順位は落ちてますが、それにしても1位が7位に落ちた程度です(まあそれでも大きな変化ではあるのですが)。それどころか、リクルートでは8位から29位に落ちたソニーが3位から1位にアップしています。
ランキングで世相を読んだり、また学生達にカツを入れたりする(これは私ですね)だけでなく、こうしたランキング結果の違いの原因を考えてみるのも面白いものです。
ちなみに調査の母数は、リクルートが約8,000人、毎日コミュニケーションズは22,000人です。
そうするとデータの信頼性は毎日コミュニケーションズが優勢か?
この違いを分析するには少し時間が掛かりそうですが、私の仮説としては両サイトの利用者層の違いがあるように思います。
どのような情報に力を入れ、どのような学生達が多く利用しているのか。
それがサイトのカラーになり、結果的にランキングにも違いが出たように思うのです。
また、トヨタの急落があまりにも刺激的なため、マスコミでリクルートのランキングばかりが取り上げられているということも我々は考えるべきでしょう。
リクルートのランキングだけが真実を語っていると考えるのは、鵜呑みという思考停止を招きある意味危険だと思うのです。
しかし毎年この時期になると、自分が新入社員だった時代を思い出します。
今週もある企業の新入社員たちに基本的なビジネススキルの研修を行いました。
昔の私と比べると、非常に真面目で前向きです。
この真面目さと前向きさは、スキルを高めるために最も必要なことです。
今回は若い人に対する愚痴めいたことも述べましたが、それでも私は若者達に希望を持っています。
1988年、あのリクルート事件のさなか敢然とリクルートに入社し、テレビのインタビューに胸を張って答えていた新入社員達は、本当にカッコよかったと思います。
今でも安定志向に逃げず、中長期的な視野で本当に自分のやりたいことをやける会社を目指す学生達もたくさんいます。
私はそうした方々を心から応援しますし、研修やセミナーを通して少しでも力になりたいと思っています。
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