ファカルティズ・コラム
2009年06月19日
『映画館大賞』の考察
約2か月前のニュースですが、日本全国のシネコンではない独立系映画館110館のスタッフが2007年12月から2008年11月に公開された映画の中から、「映画ファンにスクリーンで見てもらいたい」という基準で選んで集計した『映画館大賞』が発表されました。
ベストテンは以下の作品です。
1位「ダークナイト」(米:クリストファー・ノーラン監督)
2位「ぐるりのこと」(日本:橋口亮輔監督)
3位「おくりびと」(日本:滝田洋二郎監督)
4位「歩いても、歩いても」(日本:是枝裕和監督)
5位「トウキョウソナタ」(日・蘭・香:黒沢清監督)
6位「イントゥ・ザ・ワイルド」(米:ショーン・ペン監督)
7位「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(日本:若松孝二監督)
8位「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(米:ポール・トーマス・アンダーソン監督)
9位「ノーカントリー」(米:ジョエル&イーサン・コーエン監督)
10位「崖の上のポニョ」(日本:宮崎駿監督)
さて、この『映画館大賞』。
映画評論家や映画ファンでなく、映画館スタッフが「ぜひ劇場で見てほしい」という観点で選んだ、という点がミソでしょう。
ということは・・・はい、書店の店員さん達が「ぜひ読んでほしい」という観点で選んだ『本屋大賞』が同様のコンセプトですね。
しかしこの2つの賞、実は似て非なるものだと思うのです。
この賞が既存の本屋大賞の模倣だ、と非難するのは簡単です。しかしそんなことはどうでも良い。重要なのは、この賞が本屋大賞と同様の効果を上げられるか、ということです。
その切り口で映画館大賞を見ると、その効果には少々疑問符が付きます。
なぜならば本屋大賞と映画館大賞、いや、本と映画には根本的な違いがあるからです。
さて、映画館スタッフが作品を選ぶ基準は「劇場のスクリーンで見てほしいか否か」です。
では、この賞が集計され、発表された時にそれらの映画は劇場のスクリーンに映写されているのでしょうか。
考えるまでもなく、一部の超ロングランの作品、つまり今回のランキングの中では「崖の上のポニョ」を除けばどこの劇場にもかかっていません。
ポニョにしてもごく一部の劇場でしか見ることはできないでしょう。
本屋大賞の大賞である“本”は違います。
本は絶版にでもならない限り、書店にあります。近くの書店になくても、取り寄せや通販サイトで買うことも可能。つまり本屋大賞で上位にランキングされた本は、それを知った後に買うことが容易にできるわけです。
その結果、書店の店員さん達の「ぜひ読んでほしい」という想いは実現します。
しかし映画館のスタッフが「ぜひ劇場で見てほしい」との想いで選んだ作品達は、ランキングが発表された時には、既に上映されていないわけですから、彼らの想いは実現することはないのです。
もちろんその後DVDなどでソフト化された後に買ったりレンタルすることは可能ですが、それは彼らの想いである「ぜひ劇場で」ではなく、またその想いのさらに先にある「映画館に賑わいを取り戻す」という目標には寄与しないのです。(マイナーな制作・配給会社の作品ではソフト化されないものもあります)
もちろん映画大賞の主催者側もそれは分かっているでしょう。
だから今回のランキング上位作品のリバイバル上映も行われました。しかし・・・たった1館、渋谷のユーロスペースのみというのが実情です。
「他の映画館でもやれば良いのに」と思われるかもしれません。
しかし、それは意外に難しい。やはり映画館は、新作で人の呼べるモノ、つまり儲かる作品を上映したい(厳密には「上映せざるをえない」)からです。
このあたりが、「見てほしい作品とお金になる作品は違う」という映画ならではのジレンマでしょう。
ただ、私はだからといって「映画館大賞は意味がない」と見切るつもりはありません。
“映画館スタッフが「劇場で見てほしい」作品を選ぶ”というコンセプトは素晴らしいと思います。
私自身学生自体は映画漬けでした。というより、映画研究部の部長として映画を観る、そして創るというのは学生生活そのものだったと言っても過言ではありません。
やはり「映画は劇場で」と思いますし、『ニューシネマ・パラダイス』のラスト近く、映画館が取り壊されるシーンでは自分の夢すら壊されるように感じて号泣してしまった(笑)クチです。
よってお節介を承知で、映画館大賞の改善プランを考えてみました。
まず、現在の最大の問題は「発表時には上映は終わっている」というタイミングの悪さでしょう。
であれば、上映前にランキングを発表すれば良い。
ここで登場するのが、映画ならではの“試写”というシステムです。
なにも本屋大賞と同じ「年に一回」でなくても良いはず。1年をいくつかのシーズンに分割し、試写を見たスタッフが上映直前の作品群から「イチオシ」を決めれば良いのです。
もちろんどこからの圧力も受けないことが条件ですが(笑)
逆に「毎年選ぶ必要はない」という考え方もできるはずです。
数年に1回でもいい。「とにかくこれはDVDなどでなく劇場で見ないとダメ」という作品を選び、イベント的に大劇場を1か月ほど貸し切って上映する。
目的は「劇場で観る楽しさを多くの人に体感してもらう」ということです。
そうして多くの人が「やっぱり映画は劇場でなくちゃ」と思ってくれれば、この賞の真の目的は達成できるはずです。
そう、映画館大賞そのものではなく、優先すべきはその上位目的です。
それを明確にした上で、課題と解決策を考えていってほしいものです。
思考力の講師の立場というより、イチ映画ファンの立場から、切にそう願います。
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