KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2009年07月03日

『すべらない話』はなぜすべらないのか?(後編)

みなさん、先週土曜日の『人志松本のすべらない話・ゴールデン』はご覧になりましたか?
いやあ、今回も笑わしてもらいました。
特にほっしゃんの『ガス代』は最高でした。深夜枠の頃と比較して「アブないネタが無くなってつまらない」という意見も聞きますが、毒を消しても笑わせるのもまたプロだと私は思います。
さて、番組への個人的感想はこのくらいにして前回の続きです。
前回は、「なぜこの番組のネタはすべらないのか?」というイシューを分けて考え、そこから各出演者のプロフェッショナリティ、具体的にはお笑いというジャンルにおける『審美眼』『プロ意識』『ネタの構成力』『差別化された話芸』がそのポイントと結論づけました。
しかしもうひとつ、『物語形式というフォーマット』も重要なファクターだと私は考えます。
これ、最近ビジネスの分野でも注目されている“ストーリーテリング”の効果と同じだと思うのです。

“ストーリーテリング”とは、自身の伝えたいメッセージを、具体的な実体験などの物語を通して伝える手法のことです。
たとえば、「お客様のクレームは宝の山だから、真摯に受けとめてサービス改善に活かしていこう」だけでは、ピンとこない人も多いでしょう。
また、「まあ正論だけど、クレーム言われる立場にもなってくれよ」と思う人がいても当然です。
しかしこれを物語を通して伝えたらどうでしょう。
「実は自分も現場にいたときに様々なクレームをお客様から言われた」
「でも最初は『細かいこと言うなあ』くらいの気持ちで聞き、『検討します』という適当な対応に終始していた」
「しかしある時しつこく何度も同じクレームをつける人がいたので、仕方なく言われるとおりに対処した」
「そうしたら他のお客様も大変喜んでいただいて、売上も伸びた」
「その時初めて『お客様のクレームは宝の山』という言葉の意味がわかり、大いに反省した」
こうして具体的な事例があれば、ピンとこない人などいないでしょう。
また、自身の体験談なので「きれい事」と感じる人も確実に減ります。
『具体的な実体験』であるがために、イメージしやすく共感も得られやすいのですね。
このストーリーテリング、花王やトヨタなどがビジョンや戦略を浸透させる手段として活用しており、効果を上げています。
そして私自身が、このストーリーテリングを活用するために重要だと考えるポイントがふたつあります。
まず、「自慢話は避ける」ことです。
上記の例のように、「失敗から学んだ」という形で語る方が共感を得られやすいからです。
そしてもうひとつが、「シナリオ形式で語る」ことです。
「こういうことがあった」と事実を客観的に語るだけでなく、セリフ入り、時には心の声も入れて、さらには身振り手振りや声色も駆使してリアルに再現するのです。
そう、あたかも落語を語るように。
上記の例で言えば、クレームを言うお客様やそれをいやいや聞いている自分、過ちに気づいた時の自分を、一人芝居でなかば大げさに表現するのです。
これにより、聞き手は自分もその場にいるような錯覚を覚えます。
語り手の目と耳を共有し、あたかも語り手と一体になったかように、その時の場面を追体験することができます。
その結果思考プロセスまでも共有し、そのメッセージに共感することができるのです。
また、優れたシナリオにするためには起承転結も練らなければなりません。
最初は本題と関係のなさそうな、なにげない日常の描写から始め、徐々に盛り上げてハッとさせる。これが重要です。
さて、これらのことから今一度、『すべらない話』を見てください。
実体験であること、そして「自慢話は避ける」ことはもちろんのこと、「シナリオ形式で語る」ことが忠実に守られているはずです。
前回お話しした河本氏の表情や宮川大輔氏の擬音も、追体験させるためのテクニックなのですね。
部下や後輩への周知や指示、そして指導にこのストーリーテリングを活用してみませんか?

しかしそう考えると、『すべらない話』のスピンアウト企画である『人志松本の好きなものの話』ではけっこう“すべる話”が見受けられるのも納得できますね。
「好きなもの」を自分語りするとストーリーテリングにならない場合も出てきますから。

メルマガ
登録

メルマガ
登録