KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2009年10月16日

ホームだけでなくアウェイでも戦えるように

「ひょっとしてワールドカップに出られないかも?!」
と全世界のサッカーファンを心配させたアルゼンチンが、なんとか“アウェイ”でウルグアイに勝ち、ワールドカップ出場を決めました。
「日本の出場権を譲った方が全世界が喜ぶ」と言っていた、私の知人も一安心でしょう(笑)
私はサポーターの応援に後押しされる“ホーム”ではなく、ブーイングに耐えなければならない“アウェイ”で勝ったところに、アルゼンチンの底力を感じました。
ということで、本日のテーマはこの“ホーム”と“アウェイ”について考えてみたいと思います。
(かなりムリヤリですかね)
さて、雑談や議論の際に、自分の土俵にすぐ周りを引きずり込む、つまり“ホーム”の状態を作り出そうとする人がいます。
そしてこのホームの作り方ですが、人によって2つのタイプに分けられます。

まず、「私の経験では・・・」や「私がそれに関して心がけているのは・・・」のように、会話の中心を自分自身にしてホームを作り出すタイプ。
どうしても輪の中心にいないと気が済まないのでしょう。
自己顕示欲が強いか、あるいは疎外されることを何よりも恐れる寂しがり屋の場合もあるでしょう。
また、自身がホスト(ファシリテーター)的な立場の場合、責任感が強すぎて必要以上に呼び水的な発言を繰り返して逆効果になってしまうのも、これに該当します。
そして2つ目が、あらゆるネタを自分の専門分野に結びつけることで、対話の主導権を握ろうとするタイプです。
たとえば社会問題について話していると、「結局は小泉改革のツケが・・・」のような“得意な落としどころ”に持ち込むようなパターンです。
いますよねえ。こういう人。
テレビのコメンテイターはほとんどこのタイプかもしれません。(まあ、それを制作側から期待され、演じているのでしょうが)
しかし(テレビのコメンテイターのような)意識的な場合を除き、どうしてこのような、時には周りをドン引きさせたりうんざりさせたりする、「強引にホーム状態を作る」行動を取るのでしょうか。
考えてみれば、その場の会話に加わり他者とコミュニケーションを取ることが目的であれば、タイミングよく相づちを打ち、自分が話せることがあれば話せばよいだけのこと。
また、ホストとして(善意のファシリテーターとしても)話を膨らませたり、場を盛り上げることが目的であれば、リアクションを工夫したり、適宜他者に質問することを心がければよいはずです。
ところが、タイプ1のように自分の経験談(多くは成功談)を延々と語ったり、タイプ2のように専門知識をひけらかすことで、「なんとかホームで会話しようとする」人が多いのです。
かく言う私自身も・・・反省しなければなりません。
しかし言い訳ではありませんが、こうした行動をとっている本人も、別に悪気があってやっているわけではないはずです。
私自身を振り返っても、別に人をコントロールする目的があったわけではないし、「会話に加わり他者とコミュニケーションを取る」ことや、「もっと話を膨らませたり、場を盛り上げる」ことが目的だったはずなのです。
しかし我々は、その場を自分のホームにすることで、他者のアウェイの状況を作ってしまっている。これははっきり言って人に迷惑をかけているわけです。
こうした行動の要因としては、やはり「自分に自信がない」のだと思います。
自信がないからこそ、自分中心の話題にしたり、自分の専門領域を持ち出してイニシアチブを取らないと、不安になるのでしょう。
自分の経験や専門知識が最大限に活かせる世界、つまり“ホーム”の状況を作り出し、そこから出なければ安心なのです。
しかし当たり前の話ですが、我々はいつもいつもホームで戦えるわけではありません。
初めての仕事に取り組んだり、初めてのメンツと仕事したりといった「アウェイにならざるを得ない」環境で強引にホームにしようとすれば、「こいつは自分勝手」というレッテルをいきなり貼られてしまうでしょう。
そう、強引にホームにしようとしてもなんとかなっているのは、人間関係が既に出来ている状況か、自分の立場が相対的に上であるため、他者が「大目に見てくれている」だけなのです。
だからアウェイで戦う訓練が必要です。
サッカーにおけるアウェイでの戦い方が参考になるでしょう。
まず心構えは、『勝とうと思わないこと』です。
アウェイでは、「勝てればラッキー」です。負けなければよいのです。引き分けで勝ち点1をもぎ取ること、ホームの相手にも勝ち点1しか与えないことが重要です。
ビジネスでの議論でも、誰かに勝つ必要がある場合など、さしてないはずです。
そう考えると少し気が楽になりませんか?
特にタイプ1の方、肩の力が少し抜けてきませんか?
次に戦略ですが、これは『守り重視』です。
焦って攻めてはいけません。
まずは徹底的に相手の話を聞きましょう。
自分の経験談や専門知識を使った主張は、少なくとも序盤は避けましょう。
そして相手が攻め疲れた(話すことが尽きてきた)ら、あなたの話をしましょう。
これなら、「自分のホームに持ち込もうする自分勝手なヤツ」と思われることはありません。
アウェイであることに焦らず、アウェイなりの戦い方をする。
私もこれを機会に心がけたいと思います。

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