ファカルティズ・コラム
2011年02月18日
あえてSWOTを擁護してみる
「それを使いこなすための知識やスキルがないのに「この道具はダメ」とか「この道具は自分に向いていない」と貶すのは早計だ」
これはどこかの著名人の名言ではなく、私が本日Twitterでつぶやいたヒトコトです。
私は何を言いたかったのか?
実は、経営戦略やマーケティングのフレームワークである『SWOT』を批判する人が意外と多いことに対して、「わかってないなあ」と言いたかったのです。
SWOT(SWOT分析)の詳細説明はここでは割愛しますが、この「現状を分析し、戦略立案を支援するツール(道具)」に対しては、概ね以下のような批判があります。
(1) SWOT分析そのものが目的化しがちで、SWOTを洗い出すことで「分析した気になる」ことがある。
(2) SWOTは「今どうなっているか」という一瞬を切り取ったスナップショットでしかなく、戦略という中長期的な課題を考えるには不適切。
(3) 自社の特性を強みと見るか弱みと見るかは多分に主観的で分析する本人に依存するため、論理的妥当性・客観性に欠ける。
もちろん私は「SWOTは完璧なツールだ」とか「SWOTを批判するのはけしからん」と言いたいわけではありません。
それこそSWOTにも強みと弱みはあるわけで、「だからこういうところに注意して使った方が良いよ」とアドバイスすればいいわけです。
なのに「SWOTは使えない」とか、「SWOTほど中身のないツールはない」とか、「SWOT」は軽薄なツールだ」とか・・・
人の悪いところを指摘する前に自分を見てみろと言いたくなります(笑)
と、怒ってばかりでも仕方がないので、上記3つの批判に反論してみましょう。
まず(1)ですが、これはSWOTに限りませんので「分析することを目的化しないように」と言えば済むこと。
次に(2)ですが、現状を正しく認識せずに未来に向かってやるべきこと(長期的戦略)が考えられるとでも言うのでしょうか? であれば3Cなどの現状分析のフレームワークは全て無意味と?
「今」をきちんと見た上で、それが今後どう変化するかを予測する。
そのためのスナップショットのはずです。
もちろんその予測が当たるかどうかは別の話。
未来を確実に読める水晶玉などないのです。
だからこそシナリオプランニングという「将来のシナリオを複数想定し、それへの対処や準備、また回避策や促進策を考える」手法にしても、まずSWOT分析を行い、機会と脅威が今後どう変化するかのシナリオを考えるのです。
そして最後の(3)。
この指摘を私は否定しませんが、よくある「だから3Cの方が現状分析には適切」という代替策の提案にはまったく同意できません。
そもそも現状分析に主観が入らないわけがないからです。
たとえば3Cの『Competitor(競合)』の部分で「外資系の競合他社の参入が激化」と書けば、その裏には「競合が増えるのはマズい(つまり脅威)」という主観が見え隠れします。
「現状分析は事実だけを正確に書け」と言われても、その事実を好ましいと思うか思わないか、つまり解釈は人によって異なり、それが言語表現に現れてしまうのです。
結局戦略は人間が考え、人間が実行します。
主観を否定するのがナンセンスなのです。
だからSWOTではわざわざ強みと弱み、機会と脅威という視点で「裏と表の両方を見ようよ」と言ってくれているのです。
自社のある特性を「強みとして見たらどう表現するか」「弱みとして見るならどのような表現になるか」を考えずにSWOT分析は成立しません。
「○○の技術では業界トップ」という強みと、「○○の技術に特化しすぎ」という弱みの両方を記述すべきです。
これは機会と脅威についても同様です。
「携帯端末の普及による紙媒体離れ」という脅威だけでなく、「携帯端末の普及による新市場の拡大」という機会の両方を書けばよいのです。
どうでしょう?
この方がよほど「ひとつの価値観に縛られない」と思いませんか?
ただ、こうした『SWOT分析の留意点』が理解されない(教えられない)ままにSWOTが使われているのは事実です。
他にも
◇効率的に分析するには、強みと弱みより機会と脅威を先に洗い出す。
◇機会と脅威はマクロ環境の『PEST』や競争環境の『5フォース』などを、また強みと弱みはヒト・モノ・カネ・情報の『経営資源』や『バリューチェーン』なとを考える切り口として使って洗い出す。
◇強みは(このブログでも以前紹介した)『VRIO』を使ってスクリーニングし、コアコンピタンスを明確にする。
などがSWOT分析の留意点でしょう。
こうしたいくつかのポイントに気をつければ、SWOTはやはり現状分析ツール、つまり戦略立案の基礎データベースとして有用です。
また機会/脅威と強み/弱みを組み合わせる『クロスSWOT』を行えば、効率的に攻めと守りの戦略候補(”候補”であることがポイント)を挙げることができます。
さらにSWOTは「会社全体」という大きな括りでなく「ある事業や商品」から「個人レベル」にまで応用ができる汎用的なツールであることも見逃せません。
要するに・・・道具に文句を言うヒマがあるのなら、賢い使い方とその際の留意点を自分で見つければよいのです。
これ、対象がヒトでも同じことですよね(笑)
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