ファカルティズ・コラム
2011年02月26日
田井中律に学ぶチームビルディング
最初にお断りしておきます。
今回は(も?)私のオタク趣味満載です。
しかしだからといって「オタクの一般人には理解できない戯れ言」と思わないでほしいのです。
確かに取り上げるネタはアニメです。
はい、タイトルでお察しの通り「けいおん!」です。
(しかしタイトルでそれがわかる方は十分「こっち側のヒト」のような気もしますが(笑))
(ちなみに同作はマンガが本家(原作)ですが、描写の細かさからアニメ作品を対象とさせていただきます)
ただ、アニメからでも学ぶことはできます。
これはアニメに限った話ではありません。
ウルトラマンから「誰かを守ることの意味」を学んだ方もいらっしゃるでしょうし、学ぶ対象が『坂の上の雲』という方もいらっしゃるでしょう。
『学び』は直接的にそれを目的とした書籍(ビジネス書など)や場(研修会など)にしかないわけではなく、日常のあらゆるところに存在します。重要なのは「あらゆるモノゴトから学ぼうとする姿勢」なのです。
まあ、前置きはこのくらいにして、「けいおん!」の舞台である私立桜が丘高校軽音部の部長、りっちゃんこと田井中律から学んでみましょう。
テーマは《チームビルディング》です。
りっちゃんは凄いのですよ。
さて、そもそもチームビルディングとは?
一般的な定義としては、「様々な個性のメンバーを集め、その個性を活かして目的を効率的に達成するとともに、各メンバーが前向きかつ自立的に行動・成長するチームを作り、それを運営すること」と言えるでしょう。
時々「チームビルディングとファシリテーションって何が違うの?」という質問をいただくことがありますが、私はチームビルディングの方が概念として大きく、さらに時系列で考えた場合チームのメンバー集めから運営までと、プロセスとしてもより長いと考えています。
つまり「チームビルディングにおいて重要なスキルのひとつがファシリテーション」ということです。
では、前述のチームビルディングの定義を使って、りっちゃん隊長、いや、田井中部長のチームビルディングを見ていきましょう。
まず「様々な個性のメンバーを集める」ですが、これはもう個性的すぎるとも言えるメンバーが揃っています。(「アニメなんだから当たり前」と言わないように(笑))
このアニメの主人公であり、バンド『放課後ティータイム』のギタリストである平沢唯。
天然で超マイペースだけど楽しむことの天才である彼女は、さしずめチームのムードメイカー。
まじめな努力家でクールな美少女ベーシスト、秋山澪はチームのご意見番(実質的にリーダーとなる場面も多い)でありながら、生来の恐がりで人付き合いが苦手なため、部内では部内の貴重な「いじられ役」でもあります。
ふんわりしたお嬢様だけど、バンドの作曲を一手に引き受けるキーボーディストの琴吹紬は、音楽性以外は最初はフォロワーの立場でした。しかし途中から「積極的に楽しもう」という姿勢に変わり、バイトを始めるなど、どんどん自立していきます。
そして唯一の下級生でありもうひとりのギタリストが中野梓です。彼女はキャラクターとしては澪を補佐するご意見番なのですが、やはりそこは下級生。「育てられるべき」存在としてみんなから可愛がられています。(唯はほとんどペットのような扱いをしていますが(笑))
いやもう(しつこいようですが「アニメなんだから当たり前」と言わないように)本当に個性豊かなメンバー達なのですが、彼女たちが集結したのは律の存在あればこそなのです。
アニメを見ると「たまたま」このメンバーになったようにも見えますし、梓を入部させたときの「確保ー!」のような律の強引さばかり目立ちますが、よく見ると「こいつは絶対必要」という時にしか、律は強引さを見せていません。
たぶん本人も気づいていないと思いますが、律のこの『人的嗅覚』は相当に鋭いのです。
ほんの少しのコミュニケーションから相手のキャラクターや本気度、また入部の可能性を「測定」し、チーム内でのポジショニングすら瞬時に計算する。
これはビジネスにおけるチームビルディングでも重要なポイントでしょう。
次に「個性を活かして目的を効率的に達成する」という点ですが、律はこの点に関しては一見とても頼りなく見えます。
部長らしく「みんなを引っ張って練習する」わけでもなく、率先して(「唯と結託して」とも言えますが)お茶しながらのおしゃべりに興じます。生徒会への提出書類なんて何度忘れていたことか。
しかし学園祭直前には学校での泊まり込みを提案します。
要するに手を抜く時と力を入れる時がわかっているのです。うまく緩急をつけているわけですね。
もちろんビジネスで手を抜くのはNGですが、いつも同じテンションを保つのは難しいばかりかメンバーを疲弊させてしまいます。
そう考えると、「緩急を付ける」ことはチームビルディングの必要条件と言えるでしょう。
そして最後の「各メンバーが前向きかつ自立的に行動・成長するチームを作り、それを運営する」ですが、これこそが律の特性が最大限に活かされている部分です。
律は「上級生がいないなら即部長」と考えるように、元々リーダーシップを取りたいという意識は少なからずあります。
しかしながら「(ギターやキーボードのような)指先でチマチマやるのが向いていないからドラマーを目指した」発言にもあるように大雑把な性格であり、そのくせ学園祭の自己紹介はひとりだけサラリとやってしまうなど、実は照れ屋でそんなに目立ちたがりではありません。
だから本来の部長の役目である『指導』は澪に任せます。
澪とは幼稚園からのつきあいですから、どこでどうすればどう動くかはお互い知り尽くしています。
だから澪も自然に唯や梓を指導する役回りを引き受けます。
そして律自身は道化を演じます。
お笑いで言うところの『ボケ(それも意識的な)』が彼女の選んだ役回りです。
最初の学園祭、緊張に押しつぶされそうな澪との間のボケとツッコミ、緊張のほぐれた澪を見る本当に優しい視線は、まさに花形を輝かせるためにわざと転んで笑いを取るピエロです。
彼女は『縁の下の力持ち』になりたいのでしょう。
そう、ドラマーである田井中律は、まさにバンドの骨組みであるドラマータイプのリーダーなのです。
ドラマーとして最も重要なのは、正確なリズムキープではありません。
ましてテクニカルなフィルやドラムソロで目立つことでもありません。
重要なのは、メンバーが最も気持ちよく演奏できるグルーヴ(ノリ)を作り出すことです。
良いドラマーが後ろにいると、本当に自分が今までより上手くなったと勘違いするくらい良い演奏ができます。
梓が「なんでこの4人が揃うとこんなにいい演奏になるんだろう」と不思議がっていましたが、たとえ少し走り気味であろうが、「律がドラマーだから」いい演奏になっているのです。
先程「律は『人的嗅覚』が鋭い」と言いましたが、要するに彼女は「人を見る目」と「空気を読む」ことにかけては天才なのです。
キャラクターソング『Girly Storm 疾走 Stick』にもあるように、いつも彼女はドラムセットからメンバーの後ろ姿を見ています。
背中は確かに正直です。
その日の肉体的・精神的コンディションは顔にも表れますが、これは取り繕うことも可能です。
ところがなかなか気の回らない背中ではそれを隠すことは難しくなります。
律はドラマーであるが故に、この「背中から読む」術を身につけたのでしょう。
いや、それに長けていたからドラマーを選んだのかもしれません。
「背中からメンバーのコンディションを読み、全体の空気を読む」
これこそりっちゃんの凄さであり、チームビルディングにおけるひとつの極意と言えないでしょうか。
オタクの世界ではよく「○○は俺の嫁」という言い方をします。
私もこれを書きながらますます「律は俺の嫁」と言いたくなりました。
しかし、よくよく考えると実は私の奥さんはなんとなく律に近いことがわかってきました。
ある意味、既に「律は俺の嫁」だったのですね(笑)
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