ファカルティズ・コラム
2011年07月07日
『合意』の考察」
いや本当にすごいです。
何かと言えば菅総理の粘り腰、というか唯我独尊ぶり。
「辞める(予定)」の言葉で不信任案を否決に持って行き、その後はやりたい放題。
与党である民主党議員も「早く辞めろ」の大合唱なのにどこ吹く風で、経産省と海江田経産相がレールを引いた原発再稼働にも「待った」をかける。
党内不統一かつ閣内不統一という総理は憲政史上初ではないでしょうか。
「辞めるということで合意を取り付けたはずなのになんで?」という状況です。
そこで今回は、この『合意』というものについて考えてみたいと思います。
「合意したはずなのに…」というのは別に政治の世界だけではありません。
皆さんも仕事の中で上司や顧客に対してそう言いたくなったことがあるはずです。
では、そもそも『合意』とは何なのでしょうか。
『合意』を辞書でひくと、「互いの意見が一致すること」とあります。
法律上では、当事者の意思表示が合致することであり、その結果義務が生まれるとのこと。つまり、「合意したことは守らなくてはならない」わけです。
しかし、合意したからといって、本当に互いの意見が一致していると言えるのでしょうか?
表面上は同じ意見ではあっても、当事者には様々な思惑があるはず。
そこでここでは当事者XとYが「Aをやる(菅さんの場合は「首相を辞める」ですね)」で表面上は合意したとして、「何のためにAをやるのか」、つまりAの目的(Why)がXとYで『同じ/異なる』ケースと、「どうやってAをやるのか」、つまりAの手段(How)がXとYで『同じ/異なる』ケースの組み合わせで考えてみたいと思います。
さて、こうして整理すると、『合意のパターン』は以下の4通りに分けられます。
(1)本質的合意
表面上の意見「Aをやる」とともに、その目的(Why)および手段(How)も完全に一致しているケースです。
最も理想的な合意状態と言え、その後当事者間で揉めることはほとんど無いと思われますが、あまりに一致しているために誰もブレーキを踏まず、暴走してしまうリスクがあるかもしれません(笑)
(2)異目的合意
表面上の意見Aとそれを実現する具体的手段(How)は一致しているが、Aの上位目的(Why)が異なるケースです。
国際/国内問わず、政治的な合意はほとんどがこれと言って良いでしょう。
お互いの目的が異なることをお互いがわかっている場合は、様々な駆け引きはありながらも、今後も合意を継続することは可能です、目的が異なることをいずれか、あるいは全員が理解していない場合には、それが露呈した時に修復不可能なほど関係がこじれてしまう場合があります。
社民党の政権離脱などもその典型ですね。
(3)異手段合意
表面上の意見Aとその目的は一致しているが、Aを「どうやってやるか」の具体的手段が異なるケース。
「総論賛成。各論反対」とはまさにこれで、必ず後で揉めることになります(笑)
とはいえ、意見とその上位目的が一致しているのであれば、各論の部分は話し合いや多数決で解決可能な場合も多く、妥協点は探りやすいと言えます。
(4)表面的合意
一致しているのは表面上の意見Aだけで、目的(Why)も手段(How)も異なるケースです。
今回の菅首相の退陣問題はまさにこれでしょう。
「辞める」という点では合意したものの、その目的が「党の人気を回復したいから」の民主党と「震災からの復興にメドがついたから」の菅さんとでは全く異なります。
そして具体的手段(この場合は時期)も「すぐ」の民主党と「震災からの復興にメドがついた時点」の菅さん。
本当に笑うしかありません。(笑い事ではありませんが)
しかし、皆さんの経験した「合意したはずなのに」もこの状態ではありませんか?
そしてこうならないためにはどうすれば良いと思われますか?
さて、このして4つのパターンで整理してみると、やはり合意形成においては『意見の上位目的』が鍵となるように思います。
そうすると意見が一致、つまり一見合意できたように思えたとしても、その上位目的をお互いが確認することが重要でしょう。
もしそれが一致していないなら「本当に合意すべきか」を再考した方がよいかもしれません。
もしそれができない状況であったとしても、少なくとも「目的が異なる」事実を共有しておけば、あとから「そんなつもりではなかった」という最悪の状態は回避しやすくなるはずです。
そして意見が異なったとしても、「上位目的で合意」することさえできれば、現在の論点は各論化するため、継続的な話し合いの余地が生まれます。
たとえば6カ国協議は、なかなか合意できなくとも「戦争は避けたい」という各国の目的が一致しているから、枠組みとして完全に破綻するということがないのです。
そしてこれは会議などのファシリテーションにも応用できます。
意見に対して「なぜそう考えるのか?」を問うて目的をすりあわせたり、あるいは異なることを認識・共有すると、ちゃぶ台返しが防止できます。
また意見が異なる場合には、上位目的で一致する部分を探し、それを「でも、○○を目指したいという想いはみんな一緒ですよね?」と提示すれば、歩み寄りも期待できます。
しかし、本当に『合意』って難しいですねえ。
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