ファカルティズ・コラム
2011年11月04日
アポトーシスとしての撤退の美学
“アポトーシス”という言葉をご存じでしょうか。
これは「プログラミングされた細胞死」を意味します。
オタマジャクシからカエルに変態する際に尻尾がなくなるのは、このアポトーシスという働きによります。
大人、つまりカエルに成長するにしたがって、地上での生活に必要な脚が形作られ、不要な尻尾がアポトーシスによって消えていくわけです。
これは私たち人も同様です。
人間の指の形成過程も、はじめ指の間が埋まった状態で形成し、それからアポトーシスによって指の間の細胞が予定死して指ができます。
人間の胎児が、魚のような初期段階から、徐々に動物、人間らしくなっていくのはご存じでしょう。
さて、このアポトーシス。これは動植物という「リアルな」生命体だけで考えるべきではありません。
組織という「バーチャルな」生命体でも同じ事が言えるのではないでしょうか。
経営/事業変革のワークショップを行うと、しばしば「新組織の創設」がトップへの提案・提言のコンテンツとして出てきます。
それ自体が悪いわけではありませんが、そのようなケースでは私は以下のようにアドバイスします。
「新規に事業や組織を作る際にひとつ注意してほしいことがあります。それは、事業も組織も『生まれた瞬間から、それを守ること、継続することが第一義になってしまう』ことが多い、ということです」
あなたの組織、また世の中を見渡してみてください。何か心当たりがあるはずです。
「赤字なのになぜいつまで続けるのだろう?」
「今さらこんな組織いらないはずなのに、強引に仕事をそこに割り振る必要があるのか?」
公開講座や研修の中でも、「赤字事業を立て直す」はすぐ出てくるのに「赤字事業を売却する」はなかなか出て来なかったりします。
もちろん「赤字事業は全て撤退すべき」とは言えませんが、「戦略とは選択であり、やらないことと諦めることを決めることだ」という戦略の基本に立ち戻れば、「やめるべきものをやめる」のは必然です。
ところがなかなかそれができない。
確かに「少数ながら続けてほしいと言っている顧客がいる」かもしれません。
また、組織をなくすと言うことはポストを減らすことも意味しますから、それに対して内部から拒否反応が起こることも予測されます。
しかしそれら反論の多くは後付けでの言い訳です。
一企業のある事業が消滅したからといって本当ににっちもさっちもいかなくなる顧客はいません。他の企業の同等の商品・サービスに切り替えれば事足ります。
もし本当に切り替え不可能な顧客がいるとしたら、その事業は競合(ポーターの5フォースで言う『代替品』も含む)がいないということですから、本来は赤字になるわけがないのです。
この「やめたいけどやめられない」症候群は、どうも日本企業に多い”病”のようです。
実際の理由は、対社外と言うより対社内、もっと言うと「社内のこの事業の責任者あるいは創始者の体面を守るため」であるケースが多いようです。
日本企業が「合理的な判断に欠ける」と言われるのはこうした部分も大きな要因なのでしょう。
さて、こうした『やめることに対する抵抗感』に効くクスリが、アポトーシスだと思うのです。
そう、その事業や組織は元々不要だったわけではなく、その役目を終えただけなのです。
確かにその事業や組織が生まれる必然性はあった。だからこそ生まれた。
そしてそれは様々なベネフィットを組織や社会にもたらした。意味のある組織/事業だったのです。
しかし形の有る無しに関わらず、全てのモノゴトには始めと終わりがある。
この組織や事業にとって、今が終わるべきタイミングなのです。
しかも役目を終えたら消滅するように最初からプログラミングされていた。
アポトーシスが働いたのです。
だからやめる決断をするあなたには非がないのだと。
ある意味非常に都合の良い考え方のように見えますが、あながち間違ってはいないはずです。
ただ、ここで注意すべきなのは、続けている時と同様の過ちを起こさないことです。
つまり、「続けることが目的化」するのと同じく「やめることが目的化」しないように気をつけねばなりません。
アメリカの作家であるエマーソンの名言をご紹介しましょう。
「単に撤退するのではなく、撤退する目的を持ちたまえ」
そう、やめること、撤退することは、その対象が「ダメだったから」だけでやるべきではありません。
また、「傷が大きくならないうちに」でも、今後に活かすことにはなりません。
やめる(撤退する)目的、つまり「何のためにやめるのか?」「やめることで得られるものは何か?」そして「その得られるものを次にどう使うのか?」を明確にすべきなのです。
さて、あなたの、そしてあなたの組織の「やめるべきもの(こと)」は何でしょう?
そしてそれを「カッコよくやめる」ために、あなたは何をすべきですか?
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