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ファカルティズ・コラム

2012年01月13日

明確に相対化して考えてみよう(前編)

『相対評価』と『絶対評価』という表現があります。
ご存じの通り前者は「何かと比較して善し悪しなどを判断すること」であり、後者は「比較対象なしに善し悪しなどを判断すること」です。
「この商品はあれより機能が劣るなあ」が相対評価。
「この商品はいいねえ。気に入った」などが絶対評価の一例でしょう。
しかし、ちょっと考えてみてください。
「真の絶対評価」など、存在するのでしょうか?

たとえば上記の「この商品はいいねえ」にしても、その『良い』の根拠は何なのでしょうか。
それがもし「他の同等の商品と比べて」であれば、それは相対評価に他なりません。
比較対象となる他の商品がなかったとしても、「これで人と差が付けられる」のであれば、それは他者との比較論という相対評価です。
また「こんな商品は見たことがない」とか「この商品によって今まで出来なかったことが出来る」であれば、それは自身の過去の経験と照らし合わせ(比較し)ているのであり、これも相対評価と言って差し支えないはずです。
こうして考えてみると、真の絶対評価というものは存在しない。別の言い方をすれば、「明確な比較対象を意識せずに(つまり本当は比較対象があるのに)なんとなく善し悪しを判断する」ことを、私たちは『絶対評価』というキレイな言葉で表現しているに過ぎないとも言えます。
悪魔の辞典的な表現をすれば、「絶対評価とは、いいかげん(テキトー)な評価であることを誤魔化す言葉である」と言えるのかもしれません。


こういうことを言うと「直感(思いつき)を否定している」ように聞こえるかもしれません。
しかし私が言いたいのは『直感の否定』ではなく、また『評価』だけについて語りたいのでもありません
本日の私の提案はタイトルの通り「明確に相対化して考えてみよう」ということ。
もう少し具体的に言うと、「1. 直感の源泉にさかのぼってみよう」「2. 時には明確な比較対象を設定して考えてみよう」ということです。


1. 直感の源泉にさかのぼってみよう
善し悪しなどの判断以外にも「こうしよう」「問題はここだ」など、私たちは日々直感的に思考し、答を出します。
そうしなければ、つまり毎度毎度熟考していては効率が悪いからです。
ではその直感の源泉は何かと言えば、それは『既存(過去)の知識と経験』に他なりません。
様々な自分自身の経験、そして他者(書籍なども含め)から得た知識を基に、「これはこういうもの」「こういう時はこう」という思考パターンが形成され、それに照らし合わせ(つまり比較し)て、瞬時(直感的)に思考し、答を導き出しているわけです。
思考の最後の拠り所とも言える『価値観』にしても、やはりこうした過去の知識と経験によって形成されたものです。
だから直感的に思考するのは当然であり何も悪くありません。しかしそうして出した答が「いつも(全て)適切」であるはずがないのもまた当然です。
では、なぜ直感的に出した答が適切でない場合があるのでしょう。
まず「感情が思考を阻害する」ことが原因として考えられます。
「ついカッとなって」とか「照れ隠しに」などの理由でで誤った答を出してしまうようなケースです。
感情はとても大切ですが、時として目を曇らせる原因にもなるので、やはり取扱には注意すべきですね。
次に「照らし合わせるべき知識と経験の選択を誤る」ことも原因となり得ます。
「しまった。これはこちらのケースに当てはめるべきだった」と反省した経験は誰しもあるはずです。
そして「既存の知識と経験が足りない。または古い」ことも原因かもしれません。
知識や経験が足りなければ「異なるが少し近い」知識や経験に強引に照らし合わせることになり、それでは成功確率が低くなってしまうのも当然です。
また、「データからユーザのニーズは○○だ」という知識から答を出したら全くの的外れ、ニーズは既に別のものに移行していた、などというケースはよくあります。既存の知識と経験が「今でも通用する」というのは大きな勘違いである場合も多いのです。(中堅~ベテランのビジネスパーソンで、この落とし穴にはまっていない人はいない、と言ってもいいでしょう)
だから私たちに必要なのは、「自分の直感の拠り所は何か」「それはどのような知識と経験から形成されたのか」「その知識と経験は今でも通用するのか」を考えてみることです。
これによって自分自身の『考え方の癖(傾向)』が見えてきます。
どのメディアの情報を使う傾向が強いのか、自身の経験と他者の経験のどちらを重視しているのか、知識のアップデートの頻度は、など、様々なことが見えてくるはずです。
その結果『自分に足りない知識と経験』も少しずつ明確になりますから、この省察を行えば「直感の精度を高めるために何をすべきか」も見えてくるのです。
いかがでしょう。
直感で答を出すにしても、その精度(成功確率)を高めた方が良いと言うことに異論を唱える方はいないでしょう。
そうであれば、時にはこうして「直感の源泉にさかのぼる」ことをやってみてください。


今回はここまでとしましょう。
時間はこの続き。「2.時には明確な比較対象を設定して考えてみよう」について、戦略やマーケティングにおける活用なども含めてお話ししてみたいと思います。

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