KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2012年02月17日

『売上』と『利益』について考える

企業経営にける『売上』と『利益』、あなたはどちらが重要だと思いますか?
もちろんどちらも重要です(笑)
そもそも『利益』は「売上-コスト」の引き算で算出されますから、売上が無ければ利益も無いのは自明の理。
そして利益がゼロ、あるいはマイナスならば所謂赤字の状態ですから、企業は存続していくことができません。
また、企業の存続という命題から見れば「重要なのは利益であり、売上は利益を出すための手段である」と言うこともできます。
よって「このふたつを比べることがナンセンス」というご意見もごもっとも。
しかし、それを今日はあえて比べて考えてみたいのです。重要な経営指標であるこの『売上』と『利益』が、それぞれなぜ重要なのかを。

慶應MCC流のコンサルタント育成プログラムである『企業参謀養成講座』の伊藤良二先生はこう言われています。
「売上は力を表し、利益は質を表す」
この言葉、短い中に売上と利益の本質が込められた名言だと私は考えています。
確かに利益は企業存続の絶対条件です。
利益から配当を出し、借り入れを返済し、そして納税します。
この利益が出ている(できればそれが増加している)ということは、要するに経営(マネジメント)がうまくできているということであり、だからこそ利益は(経営の)質を表すのです。
質の高い経営が行われているからこそ、その株は買われ、銀行は融資し、取引先は商品をその企業に納入することができるのですから。
伊藤先生の言葉をわかりやすく言い換えるならば、「利益は経営の質の高さを示し、ステークホルダーの信用を得る指標」なのです。
しかし企業は利益を出し続けていれば良いわけではありません。
たとえば利益が堅調であっても、売上が右肩下がりで年々下降していればどうなるでしょう。
そう、「この会社は勢いが無い」と周囲から見られてしまいます。
だから売上はその企業の商品・サービスの力を表しているのです。
人間は物理的な老いを止めることはできませんが、企業は創業何百年であろうが、若々しい勢いを保ち、高めることは可能です。
力を維持・向上させていれば、ステークホルダーはあちらから近づいてきます。「ぜひウチからお金を借りてくれ」「その商品をウチでも売らせてくれ」といったように。
彼らは期待しているのです。その会社の将来に。
「売上は商品・サービスの力を示し、ステークホルダーの期待を高める指標」なのです。


ここで冒頭の問いに戻りましょう。
売上と利益、どちらが重要なのか。
私の答は、「タイミングと事業によって優先順位は異なる」です。
現在の事業環境、そしてその中の自社の位置づけによって、売上と利益のどちらを優先させるかは違ってくるはずです。
「今は赤字でも(つまり利益を多少犠牲にしても)まずは顧客を増やして売上を伸ばすべき」時期かもしれません。あるいは「売上は落ちてもコスト削減を行い、とにかく利益を出し続けて逆風に耐えるべき」時期もあるでしょう。
今はどちらを優先させるタイミングなのか。その見極めは大切です。
そして同様に「会社の屋台骨を支えているから、売上を伸ばすことよりも着実に利益を出すべき」事業もあれば、「我が社のブランド力を高めるためにも、多少(利益的には)無理をしても売上を伸ばすべき」事業もあるはずです。
事業によっても売上と利益の優先順位を明確にしておくべきなのです。
これが明確になっていれば、具体的に何をすべきかも自ずと見えてきます。
売上を優先する事業であれば、マーケティングの出番です。
ターゲットを明確化し、商品・サービスをどう差別化するか、売り方やプロモーションをどうするか等を徹底的に考える。
利益を優先する事業であれば、まず「商品・サービスを高く売る(要するに利幅の大きい商売をする)か、それともコストダウンをはかる(価格競争力を高めて薄利多売の商売をする)か」を見極めた上で、具体的な事業戦略を考えるべきでしょう。
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ちなみに、ビール業界においては前者の『利幅の大きい事業(商品)』はプレミアムビール(高価格商品)やノンアルコールビール(酒税がかからない)であり、後者の『薄利多売の事業(商品)』が発泡酒や第三のビールです。
こうして見ると、業績の良いビール会社は明確な方針に基づいて事業のポートフォリオを組んでいることがわかります。
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本来は経営トップがこうした『タイミングと事業の位置づけを見極めた売上と利益の優先順位』を方針として明らかにすべきなのですが、それができている企業がどれだけあるのでしょう。


さて、あなたの会社は今『売上』と『利益』のどちらを重視するタイミングですか?
そして現状のマネジメントはそれに沿っていますか?
また、あなたの会社ではタイミングとともに事業毎に『売上』と『利益』のどちらを優先させるかの方針は明確になっていますか?
そして現状のマーケティングは…


この厳しい経営環境で生き残る、そして成長するためにも、今一度このある意味当たり前の問いをあなたが自分に、そして社内に問いかけてみてください。

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