ファカルティズ・コラム
2012年12月21日
“五常”を胸に
前回のエントリーではリーダー像について考察しましたが、その中のキーワードのひとつに『人間力』があります。
「MBAライクな知識やスキルは確かに必要だけど、やはり人間力が重要だよね」
しかしこの『人間力』という言葉。
確かに重要であり、私たちもしばしば使うわけですが、あまりにも抽象的。
では、具体的に『人間力が高い人』ってどういう人なのでしょう?
「要は性格が良い人ってこと?」
「いや、それもあるんだろうけど、もっと、ほら、度量が大きいっていうか」
「軸がぶれない、でも柔軟性もちゃんとあって」
「変化を怖れないってのも入れたいなあ」
だんだん収拾が付かなくなってきました(笑)
そこで今回ご紹介したいのが”五常”です。
“五常”とは、儒教思想において根幹をなす<仁・義・礼・智・信>の五つの徳目を指します。
「あれ? 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つでは?」
えーと、それは「南総里見八犬伝」です(笑)
NHKの人形劇版、面白かったですよね(頷いてくれる方は同年代ですね)。
話を戻しましょう。
この五常、まさにリーダーとしての『人間力』を定義していると思うのです。
以下、その構造を私なりの解釈も交えて図示します。
では、具体的に説明してみましょう。
<仁>
まず、五常の中心となるのが<仁>。
自分以外の全てに対する思いやり、慈愛の精神を意味します。
英語で言えば”Love”が適切でしょう。
<智>
実は<仁>を持つためには、様々なことについて知り、理解していなければなりません。
つまり、<仁>を支えるための知識や知恵が必要で、それが<智>です。
“Knowledge”や”Wisdom”を得ようとすること、つまり「学ぶ姿勢」も徳のひとつなのです。
<礼>
五常の中心となる<仁>の具体的行動が<礼>、他者を”Respect”する姿勢です。
たとえ敵であっても礼を忘れない。
見下したり、軽視することが心に隙を作るのです。
<信>
『仁』の精神は相手に対する誠実さ、”Honesty”として表れ、そしてそれはお互いの信頼関係に発展し絆、”Nexus”となります。
私たちはひとりでは何も出来ません。仕事も、そして生きていくことさえも。
これが4つ目の徳、<信>です。
<義>
そして<仁・礼・信>によって為すべき事を為していく。
己のため(これを儒教では<利>と呼び、<義>の対極に位置づけています)でなく、また自分の身近な人々のためだけでなく、「世のため人のため」、つまり大義(”Cause”)や正義(”Justice”)のために。
これが<義>の精神です。
先に冗談のように示した「南総里見八犬伝」ではこれに<忠(君主に尽くす)>、<孝(親に尽くす)>、<悌(長幼が互いに尽くす)>が加わりますから、まさにこの”五常”は武士の心得の根幹をなすフレームワークであったと言えるでしょう。
しかし、お気づきのように”五常”は武士、サムライのためだけのフレームワークではありません。
そして当然ビジネスリーダーだけのものでもなく、私たち人間が生き、働くために有すべき『人間力』の方向性を示してくれます。
部下や同僚、家族や顧客に対する思いやりを忘れないこと。
たとえ誰かを切らざるを得ない場面でも、自身も同じ痛みを感じること。
常に学び、自分を磨くこと。
「自分はできている」と簡単に満足しないこと。
他者と他者の意見を尊重し、聞く耳を持つこと。
競合他社をけなしたり、自分と意見の異なる人を「お前は間違っている」と安易に断じないこと。
嘘をついたり、誤魔化したりせずに、誰に対しても誠実に対応すること。
約束を守り、信頼関係を築いて何でも言い合える仲間を作ること。
自分のためだけでなく、仲間達、会社、日本、そして世界のために何が出来るかを考え、力を尽くすこと。
そのためにも社会で起きている様々な出来事に関心を持つこと。
こう書いてみると、五常全てを実践するのは本当に難しいと痛感します(笑)
これが全て体現できている人などいないとも思えてきます。
しかし、「こんなきれい事言ってても仕方がない」と言ってしまうのも、ただの言い訳に過ぎません。
本当は「きれい事」が理想なのですから。
たどり着けない、まだたどり着いていないからこそ目指す『人間力』の頂。
これが”五常”なのです。
また、これは日々の具体的活動のチェックリストとしても使えます。
たとえば顧客へのプレゼンテーション資料を作る時、五常のフレームワークでチェックするのです。
「本当にお客さんのことを思って作っているか?」
「調べ尽くし、考え抜いたか?」
「競合の悪口は述べていないか?」
「データの間違いや誇張はないか?」
「そこに大義はあるか?」
のように。
他にも様々な場面で自身の行動を戒めることが出来るはずです。
私も折に触れて自分の『人間力』と『行動』を見つめ直すフレームワークとして、この”五常”を胸に刻みたいと思います。
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