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ファカルティズ・コラム

2014年01月09日

東洋大学の取り組みから「人材戦略」を考える

2014年がスタートしました。
皆さんは、どんな年末年始をおくられたでしょうか。
私は4冊目の著書の原稿が正月明けであったため、ほとんど家にこもってキーボードを叩いてました(笑)
また、昨年父親が亡くなったこともあり、あまり正月らしい正月ではありませんでした。
なので例年ならチェックしている、正月恒例の箱根駅伝も、結果だけをニュースで見ました。
ご存じの通り、東洋大学が圧勝したわけですが、昨日付けの日経BP Onlineに、なかなか興味深い記事が載っています。
『「山の神」不在でも優勝できた理由 – 箱根駅伝から学ぶ東洋大学の「強化のデザイン」』
この記事では、今回の東洋大学の強さの背景が分析されているわけですが、これ、企業の「人材戦略」としても参考になると思うのです。



この記事では、東洋大学の強さの秘密を「3つ」に整理しています。


1. 人材~有望な新入生の継続的勧誘~
ちょうど1年おきに学生長距離界を代表するような選手を「柱」候補として見極め、高校からスカウトする。
こうして中長期的に強化を捉え、数年先のチームをデザインしながら人材を獲得し、リーダーを意図的、継続的につくる。


2. コーチング~育成力が強さを生む~
1区で好走した田口選手は、高校時代は全くの無名だったが、長身から来るダイナミックなフォームに着目し、育てて結果を出させた。
高校時代からのエリートだけでなく、埋もれた素材を勧誘し、育成するところに東洋大の強さがある。


3. インフラ~大学当局の「本気度」~
個々の競技の強化だけでなく、競泳、ボクシング、陸上と、幅広く有名選手・コーチを獲得することで、「スポーツ全般に力を入れている」ことをアピールし、全国区での大学のブランドを構築した。
これは個々の体育会だけでなく、大学としての「方針」を明確化し、投資したことにより実現した。


こうした取り組みにより、東洋大の箱根での成績は、ここ5年間で優勝3回、2位2回という圧倒的な強さを誇っています。
まさに中長期的戦略に基づいて、選手の潜在的な力を発揮させる「仕組み」ができていると言えますが、私たちは、ここから「企業の人材戦略」という視点で、何を学ぶことができるのでしょうか。


まず、「1.」と「2.」からは、リーダー育成における「計画性」の重要さが見えてきます。
「次世代リーダー育成」を目的とした、研修を含む仕組みについては、多くの企業が取り組んでいますが、そこには2つの視点が欠けていないでしょうか。
それは、「リーダー候補の選び方」と「リーダーのバトンタッチ」です。
企業の次世代リーダーは、やはり現場の長からの推薦がベースとなります。
しかし、推薦の基準は何でしょうか。
「成果を出している人材」が基本でしょうが、それは本当にその人が優れているから成果がでているのでしょうか。
「高校時代は無名でも伸びしろがある選手」を東洋大が獲得しているように、「その部署では力を発揮できていないが、潜在的な能力は高い人材」もいるはずですが、そうした「宝の持ち腐れ」もあるはずです。
また、単に「毎年定例的に選抜、育成する」のが、本当に良いのか?
東洋大は「1年おき」ですが、企業であれば、ひょっとすると「5年おき」でも良いかもしれません。
やはり「経営者や上級管理者のバトンタッチ」という視点も必要ではないでしょうか。


そして「社内から選抜して育てる」というリーダー育成だけでなく、新卒、中途の「採用と育成」という点で、東洋大の取り組みを見てみるとどうでしょう。
「3.」にあるような、「リクルーティングを有利に進めるための、企業ブランディング」を、どれだけの企業が考えているでしょうか。
また、東洋大が今までスカウティングで弱かった西日本を視野に入れ、全国的なブランドイメージを高める戦略を取ったように、「日本だけでなく、グローバルでの採用活動を視野に入れた企業ブランディング」については、ほとんど取り組まれていないのが実情ではないでしょうか。


人材戦略は、「採用」「育成」「処遇」という3つの視点が不可欠です。
どのような人材を、どこから、どうやって採ってくるのか。
採用した人材を、どの分野においてどのレベルまで、どうやって育てるのか。
そして育った人材をどう動かし、インセンティブを与えるのか。
しかしこれらを考える前に必要なのが、「組織の目的・目標」です。
東洋大はこれを「箱根で勝つこと」でなく、「箱根で常勝すること」に置いていたわけです。
そしてそれを実現するための人材戦略を考え、ほぼ実現させました。
さて、あなたの会社は、どのような目標を立て、それに対してどのような戦略を立てるべきでしょうか。






ここから先は独り言ですが、大学が(高校もそうですが)やっているような「スカウティング」を企業も行ってもいいのではないでしょうか。
東洋大の「1年おきに柱となる選手を獲る」のように、経営幹部候補を、大学時代に起業した学生に目を付けて獲得する企業が出てきても…

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