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ファカルティズ・コラム

2014年09月05日

朝日新聞問題から「リーダー」について考える

ご存じの通り、朝日新聞の従軍慰安婦問題の「誤報」に関して、「炎上」とも言えるほど騒動が広がっています。
誤報を認めたことに対しても、様々な議論を呼んでいるわけですが、その火に油を注いだのが、

(1)池上彰氏の批判的コラムの掲載拒否
(2)慰安婦報道に関する木村伊量社長からの社内メール

の2つです。
(1)に関してはネットを中心に(それも身内の現役記者も加わった)批判が高まったことを受けて、一転掲載されることになりましたが、(2)と併せて、今度は「組織のガバナンス」に対して批判が集まることとなりました。
本ブログのポリシーとして、慰安婦問題のようなイデオロギーに関する主張を行うつもりはありません。
よって今回は、この騒動を客観視・一般化し、『組織のリーダー』について考えてみたいと思います。



どんな組織にも「優秀な人材」と「優秀とは言えない人材」がいます。
パレートの法則に則れば、その割合は「2:8」。
同様に、どんな組織にも「変革を志向する人材」と「現状維持を志向する人材」がいます。
これもまた割合は「2:8」なのかもしれません。
この切り口をマトリクスで組み合わせて考えると、4タイプの人材像が浮かび上がります。
(A)変革志向の優秀な人材
(B)変革志向の優秀ではない人材
(C)現状維持志向の優秀な人材
(D)現状維持志向の優秀ではない人材
さて、組織のリーダーとして、望ましい(あなたが上司にしたい)のは、どのタイプでしょうか。


・・・その答は人によって、そしてあなたとあなたの組織が置かれた状況によって違うはずです。
たぶん(D)を選ぶ人が一番少ないと思いますが、このタイプも無いとは言えません。
あなた自身が(C)だとしたら、ある意味最も「やりやすい」「楽ができる」場合もありますから。
また、(C)タイプのリーダーも、「仕事は生活の糧を得る手段。ルーチンワークこそ至高の仕事」と割り切る人にとっては、ある意味ありがたいタイプのリーダーです。
「優秀な上司の言う通りにやっておけば間違いはない」ですから。
(B)タイプのリーダーも、(A)タイプの部下からしたら、振り回されるリスクはあるものの、うまく立ち回れば「やりたいことを思い切りやれる」環境を作ることが可能です。
そして(A)タイプ。これは(C)(D)タイプの部下からしたらかなりタイヘンではありますが、(A)(B)タイプの部下にとっては理想的なリーダーでしょう。
やはりリーダーには、決まり切った理想像などないのです。


では、ここで考えてみましょう。
朝日新聞の木村社長はどのタイプなのでしょうか。
今回の騒動を見ると、「方針は変えない」というメールの内容から、そしてもし池上彰氏のコラム掲載拒否にも関与しているとしたら、やはり(D)の「現状維持志向の優秀ではないリーダー」に見えてしまいます。
しかしそれはそれでオカシイと思いませんか?
朝日新聞のような大会社で、そんな人がリーダーになれるとは思えないからです。
こうして考えていくと、ふたつの真実に気がつく。つまり、
◆人は変わる
◆「優秀」の判断基準は変わる
ということです。


「立場が人を作る」と言いますが、それは良い意味と悪い意味の両方があります。
さして優秀とは言えなかった人が、上の立場に立ったことで立派なリーダーに変わることがあります。
また反対に、変革志向の人が、上の立場に立ったとたんに現状維持志向に変わった例も、掃いて捨てるほどあります。
やはり「人は良い意味でも悪い意味でも変わる」ものです。
つまり次のリーダーを決める立場にある人は、「こいつはどう変わるか」までを考える必要があるのです。
もちろん人の変化を完璧に予想することなど不可能ですが、少なくともリーダー任命の判断基準のひとつとしては考えるべきでしょう。


そして「何をもって優秀か」も、置かれた状況によって、また立場によって変わります。
たとえば組織として体力を蓄える時期であれば、コスト削減など「効率化」に手慣れている人が「優秀」とみなされるでしょうし、どんどん新しいことをやるべき時期であれば、「創造性」や「部下の発想の引き出し方」に優れている人が「優秀」となります。
また、「名選手、名監督にあらず」という言葉にもあるように、営業マンとして優秀だった人が、営業部長として優秀とは限りません。
だから状況と立場(に求められる機能)に応じて、求められるリーダーは違ってくるのです。


さて、こうして考えてみると、朝日新聞の今後のリーダーとしては、どのような人材が求められるのでしょうか。
それは少なくとも、「朝日新聞の今までの立場を守ろうとする人」ではないでしょうし、「記者として優秀だった人」でもないはずです。
そしてこのようなことを考えなければならないのは、もちろん朝日新聞だけではありません。
あなたの会社は?
あなたの部署では?
リーダーを目指す方に、そしてリーダーを選ぶ方に、それを考えてほしいと思います。

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