KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2014年12月26日

信頼とブランド

2014年も間もなく終わり。
皆さんにとって、この1年はどんな年でしたか?
私にとっては、いくつかの意味で少々ほろ苦い、しかしそこからの学びの多かった年でした。
ビジネスの世界に目を転じてみると、円安の恩恵や技術力などで最高益をたたき出した企業もあれば、失策や不祥事によって評判を落とし、業績も低迷している企業もあります。
本年最後の「ファカルティズ・コラム」では、この不祥事について、特にその後の対応にフォーカスして述べてみたいと思います。




さて、今年の企業の不祥事と言えば、皆さん何を思い浮かべるでしょうか。
記憶に新しいところでは、
◆タカタのエアバッグの不具合による大量のリコール
◆マクドナルド他の中国産チキンの衛生問題
◆ベネッセの顧客情報流出
◆朝日新聞の誤報問題
などでしょうか。
リコールについては機械である以上仕方のないこととも言えますが、タカタ本体が「リコールを渋っている」ように米国で受け取られてしまったのは問題でした。
また、それ以外の3つの案件も、問題そのものだけでなく、その後の対応で叩かれています。
組織には様々な人がいます。また、仕事は他社と組んでやることも多いですから、そこにもまた様々な人がいます。
悪気はなくとも、ちょっとしたミスは誰でも犯しますし、技術的なトラブルをゼロにすることは理論上不可能です。
つまり「不祥事」は必ず起きるのです。
だから重要なのは「その後の対応」。
これしだいで、企業としての信頼を取り戻すのか失うのか、それが決まると言ってもいいでしょう。
「ブランド」とは信頼に他なりません。
特に「企業ブランド」において、「この会社なら信頼できる」と思ってもらえるか、それとも「この会社は嫌いだ」となるのか。
これは今後の企業活動を左右する大きな問題です。


私の経験談をお話ししましょう。
我が家にはサントリーの家具があります。
50~70年使ったウイスキー樽を再利用して作られた家具で、我が家ではダイニングセットなど、いくつかのサントリーの家具を10年以上使っています。
実は樽材であるロイヤルヤークの板は、家具材としても非常に高級品です。
変形しにくい「柾目取り」という贅沢な取り方をしていることもあり、同様の木材を使った家具は、たとえば2m程度のダイニングテーブルであれば、平気で50万以上します。
しかしサントリーならばその半額以下。元々捨てるはずの古くなった樽の再利用だからできる価格設定です。
だから私も買えたわけで(笑)
さて、この家具を買った数年後、サントリーから手紙が届きました。
そこには「樽ものがたりに関するお詫びとお知らせ」ということで、
・出荷した家具に、一部樽材以外の材料があったこと。
・ただ、私の買った家具は全部樽材であること。
・しかし、こうした過ちを犯してしまったことは顧客に公表し、謝罪すべきであること。
が書かれていました。
私は、正直「ああそうなのか。真摯な姿勢だな」くらいの感想しか持ちませんでした。
そしてそれから約1ヶ月後。またもやサントリーから、しかし今度は荷物が届きました。
開けてみると、なんとそこにはサントリーウイスキー「山崎12年」が!
添付されていた手紙には、「今回の不始末のお詫びとしてどうかご賞味いただきたい」と書かれていました。
「ここまでやるのか!」
私は感嘆しました。先に述べたように、我が家の家具は自動車で言えば「リコール対象外」です。
それなのにこの対応。
サントリーはわかっているのです。
ブランドとは信頼であることを。
そしてその信頼は実はもろい物であり、簡単に壊れてしまうこと。
だからこそ「信頼し続けてもらう」ための活動が重要であることを。
「そこまでやるのか!」
こう顧客に思わせる、つまり「期待を超える対応」が重要です。
どれだけの企業が、不祥事を起こした後に「期待を超える対応」ができているでしょうか。
サントリー以外では、顧客情報の流出後、すぐにテレビで謝罪し、営業を自粛したジャパネットタカタなどは、これができていたと言えるでしょう。


さて、これは企業だけではありません。
私たち個人も、ひとりのビジネスプロフェッショナルとして心に留めておくべきでしょう。
自分はどのようなブランドを確立したいのか。
そのためには、誰からの信頼を得続けなければならないのか。
そして何かやらかしてしまったら、どのような「期待を超える対応」を取るべきか。
私も考えてみようと思います。




来年も宜しくお願いします。
良いお年をお迎えください。

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