ファカルティズ・コラム
2015年03月20日
大塚家具はどこに向かうべきか
大塚家具が揺れています。
ご存じの通り、会長である父親と、その娘である社長とが、経営方針を巡って争っています。
本件、「親子の骨肉の争い」という部分が世間の耳目を集めているわけですが、正直それは本質ではありません。
重要なのは、「企業としてどこに向かっていくべきか」。
つまり、戦略をどう定めるかという点です。
「戦略とは選択である」という格言の示す通り、「何をやって何をやらないか」「何を求めて何を諦めるか」を決めるべき岐路に立たされているわけです。
まず、両者の考える戦略の根本的違いを明らかにしておきましょう。
日経BPのインタビューを見ると、なぜかお互いに「違うのは広告予算の使い方だけ」という言い方をしていますが、私はそれは些細なことだと考えています。
根本的な違いは、マーケティング用語を使えば「ターゲティング」をやり直すのかしないのか。
つまり現状の想定顧客を変えるのか、それとも変えないのか、ということです。
では、現状の想定顧客とは?
それは明らかに「高所得者層」であり、さらに言えば、独立や結婚などをきっかけとした「まとめ買いをしたい顧客」です。
だからこその会員制であり、そして担当者がついて説明しながら巨大な店舗内を回る、というシステムになっています。
会長はこのターゲティングを「変える必要はない」。
そして社長は「変えないとダメ」と主張しているわけですね。
では、どちらの戦略が「正しい」のか。
それは誰にもわかりません(笑)
戦略に唯一の正解などないからです。結果が出て、つまり歴史が証明するだけです。
まあ、ここで終わっては何のためにこんなエントリーを書いているかわかりません(笑)ので、私なりの意見は明らかにしたいと思います。
私としては、「どちらもアリ」だと考えます。ただし「条件付き」で。
もう少し具体的に説明しましょう。
「戦略とはポジショニングである」というこれまた名言からもわかるように、市場の他のプレイヤー、つまり競合とは異なるポジショニングを取ることは、差別化戦略の基本中の基本です。
「高所得者層のまとめ買い家具市場」を見れば、いや、家具市場全体を見ても、大塚家具と同様のポジションを取る企業はありません。
地方の家具店で同様の手法を用いる企業はあるかもしれませんが、店舗の規模と数を考えれば相手になりません。
つまり、現時点で大塚家具は確固たるポジションを築いていますから、差別化戦略としては「既にできている」状態です。
よって、会長の方針は何も間違ってはいません。「高所得者層のまとめ買い家具市場」において、顧客はこれからも「大塚家具で買う」ことを選択するでしょう。
ただ、この方針を選択には条件が付きます。
それは、「企業規模を縮小すること」です。
なぜならば、前提となる「高所得者層のまとめ買い家具市場」は、同社が好調であった時代に比べ、残念ながら縮小していると考えられるからです。
それは少子高齢化の加速、そして平均所得の低下というデータから推察されます。
「高所得者層のまとめ買い家具市場」は、もはや「ニッチ市場」なのです。
だからその市場で生きていくのであれば、市場の規模に合わせて自分達もスリム化するしかありません。そうして企業としての成長・拡大を諦め、「生き残ること」を志向するのです。
ですから、もし会長が「俺のやり方でもう一度この会社を成長させる」と考えているとしたら、会長が実権を握ることには私は反対です。
では、社長の方針はどうでしょう。
・・・・・・正直、判断できるほどの情報がありません。
中期経営計画では、「従来の大塚家具のビジネスモデルである会員制の販売スタイルと広告宣伝活動によるブランディングが通用しなくなってきた。よって店舗運営・会員制ビジネスモデルの見直しと消費者からの適正な認識を形成し、これからの「住」需要に応えるビジネスを構築する」「
高価格帯・中価格帯の「単品買い需要」を自社に呼び戻し、拡大するインバウンド需要(五輪効果等)を含む法人需要の取り込みを図る」
と謳っていますが、今ひとつ具体性に欠けます。
ビジネスモデルをどう見直すのか、そして結局ターゲットは誰にするのかが、現時点では見えてこないのです。
確かに「北欧スタイルのEDITION BLUE、寝具のGood Sleep(ぐっすり)Factory、照明のLightarium(ライタリウム)、収納Factoryなどの出店を検討する」という具体策は出ているものの、それにしても「いろいろ新しいことをやります」というレベルであり、「どんな方針の下に?」という問いには答えていません。
ですから社長の方針に対する条件とは、まさにこの「早急にターゲット顧客とビジネスモデルを明確化する」こと以外にありません。
先に述べたように、会長方針を選択する条件は、「ニッチ市場に見合ったスリム化」ですから、もし大塚家具の成長・拡大を志向するなら、社長方針を選択するしかありません。
しかし、その社長方針がまだまだ抽象論。
「変えなきゃダメだ」と危機感を煽るだけでなく、「どう変えるのか」を明確なビジネスモデルキャンパスで見せてほしいものです。
ひょっとすると大塚家具の一番のクリティカル・ポイントは、単に「変えるか変えないか」の議論に終始しているところにあるのかもしれません。
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