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ファカルティズ・コラム

2015年04月10日

「再定義」によるイノベーション

本日4月10日、”Apple Watch”の予約が開始されました。
発表された直後から、既にネット上でも期待や落胆の声が上がっています。
一部のIT系ジャーナリストには貸出もしており、彼らのレビューも読むことができます。
さて、このApple Watchは成功するのか?
個人的な見解は本エントリーの最後で述べようと思いますが、私が注目したいのは本製品のコンセプト。
そう、“腕時計の再定義”です。



ご存じの通り、iPhoneも『電話の再定義』がコンセプトでした。
「電話とはこういうもの」という定義を見直した。
これが今後の電話の定義となる。
つまり、iPhoneこそがこれからの電話のスタンダードとなるのだ。
ジョブズが言いたかったことはこれです。
そして、それは現実のものとなりました。
iPhone以前は、BlackBerryのような製品もあったわけですが、今スマホと言えば、ほとんどの製品がデザイン、機能などにおいて「iPhoneの後追い」になっています。


さて、この「再定義」。
これはAppleに限らず、多くのイノベーションのキーワードです。
「カメラとはフィルムを入れ替えて使うもの」を再定義した”写ルンです”。
さらに「カメラとはフィルムに感光させることで写すもの」を再定義したのがデジカメでした。
他にも「陸上を移動するための空間」を再定義し、馬車からシェアを奪った自動車など、こうした「ある目的を遂げるためのやり方の常識」を変えてしまうことが「再定義」です。
そうして人々の常識を変えて普及させる。
まさにこの「再定義」はイノベーションのキーワードなのです。
ジョージ・ネラーは、著書「創造性の技術と科学」の中で、「創造とは、未知のものを見いだすために、既知のものを再編成することである」と言いました。
既存の技術や部品(既知のもの)を組み合わせ(再編成)て、新しい電話の形(未知のもの)を示した(再定義)iPhoneも、まさにそうです。
日本の家電メーカーが、イノベーションを起こせず(以前はソニーのウォークマンなど、イノベーションが起こせていたのに)凋落していったのは、この「再定義する力」が落ちていると言ってもいいのではないでしょうか。
何も新技術でなくてもいいのです。
既存の技術を組み合わせて、今ある「何か」を再定義する。
そうしてイノベーションを起こすことに、もっと知恵を使ってほしいと思います。
「スマート家電」というワードがありますが、これを「スマホと連動した家電」などと定義しているようでは、イノベーションなど起こせるわけもありません。
冷蔵庫や洗濯機だって再定義できるはずです。
現にルンバは、まさに「掃除機を再定義」したのですから。


最後に、お約束通りApple Watchについての私の見解を。
個人的には、「ある程度は売れるだろうが、『腕時計の再定義』と言えるほどスタンダードにはならない」と考えています。
一番大きな理由は、「腕時計の定義が無数にある」からです。
腕時計は1000円を切るものから、それこそ1000万円を超えるものまで、様々な価格帯に分かれています。
また、デザインや機能も多用です。
これは腕時計が単に「時間を確認するもの」ではなく、「自身のライフスタイルやステータスを表現するもの」など、その定義が多用であることが原因です。
iPhoneが再定義した「電話」は、「離れた相手と話すもの」以外に、腕時計ほど多用な定義はできません。だから「離れた相手と話すだけでなく、写真を撮ったりアプリで遊んだり、さらに…」という再定義ができたわけです。
確かにApple Watchも従来の時計になかった機能はたくさんあります。しかしそれらはかなりユーザーを選ぶものがほとんどであり、つまりニッチなのです。
また、「iPhoneにメールが来たのがわかる」などのスマホとの連動機能も、「無いと困る」というレベルではありません。
Appleも腕時計が多義的であることはわかっています。
だからこそ多くのラインナップと価格帯で品揃えをしたわけです。
しかしながら、じゃあオメガを使っていた人が一番高いApple Watchに乗り換えるかと言えば…
それはないでしょう。
やはりどんなに金ピカで高価でも、「液晶画面は安っぽい」のです。
「モダンな格好良さ」が、「トラディショナルな格好良さ」に必ず勝つわけではありません。
それは個人の好みの問題であり、またTPOでも違うのです。
冒頭ご紹介したレビュー。
あれはIT系のジャーナリストが書いている点に注目すべきです。
いわゆるセレブと呼ばれる人々なら、どんなレビューになったでしょうか。
まあ、Appleが「使ってみてください」と言っても、「遠慮します」という人が多いと思いますが(笑)

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