KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

ファカルティズ・コラム

2015年10月23日

「コト」のインターネット化がもたらすもの

「ハプティクス」という言葉をご存じでしょうか。
これはシステムの利用者に力、振動、動きなどを与えることで皮膚感覚フィードバックを得るテクノロジー、および学問を指した言葉で、「触覚技術」とも訳されます。
身近な例としては、スマートフォンの画面でなんらかのボタンを押したとき、そこを振動させることで「押した」感触を持たせたり、ゲームで敵から攻撃されたときにコントローラー振動することで「撃たれた」感触を持たせるのが、ハプティクスです。
しかしこの技術、最近はもっと進歩しています。





先日、CEATEC JAPAN(アジア最大のエレクトロニクス・ITの展示会)に行ってきました。
私のお目当てはハプティクス。
テクノロジーのウォッチを行う中から、「どうも単に振動でフィードバックすめだけではなくなってきてているようだ」と感じたからです。
会場でハプティクス関連の展示や体験、そしてセミナーに参加してみると、それは確信に変わっていきました。


ミライセンスというベンチャーのブースでは、振動によって「脳に錯覚を起こさせ」、あたかも自分のコントローラーを持つ手が引っ張られたり、反対に放されたり、という不思議な感覚を味わいました。
情報技術と最新の脳科学が結びつくことで、新たな可能性が生まれています。
彼らは、触覚を「触覚(ザラザラ/スベスベなど)」「圧覚(コツコツ/トントンなど)」「力覚(プッチン/ギューなど)」と3つに分け、それをひとつのデバイスで実現していました。
これを応用すると、たとえばスマホ上の地図を見なくとも、持ったスマホが行き先に手を取って連れて行ってくれるようなサービス・アプリが可能になります。
そうすれば、「電子盲導犬」も実現できますね。
さらにオキュラスリフトに代表される、3Dバーチャル・リアリティのヘッドマウント・ディスプレイと組み合わせれば、自宅にいながらにして大自然の息吹を感じながらツアーするようなことも、今後は可能になるでしょう。
今まではデジタルで再現できるのは、静止画・動画(CG含む)といった視覚情報と、音声・音楽といった聴覚情報に限られていました。
それに触覚情報が加われば、五感のうち3つはデジタル化できたことになります。
後は嗅覚と味覚ですが…これも「脳に錯覚を起こさせる」ことで可能になるのかもしれません。
夢が広がるというか、怖い世の中になるというか…
しかし、技術の進歩は人類の進歩。今後も見守りたいと思います。


また、慶應大学のブースでも、興味深い試みが行われていました。
それはロボットアームの遠隔制御に、このハプティクスを応用した展示です。
人が行けないような海底や宇宙、はたまた原子炉の内部などで何らかの作業を行うとすれば、当然ロボットアームを遠隔制御することになりますが、残念ながら人の手のような繊細なコントロールは困難でした。
それはロボットが触れる先のモノの重さや固さなどが、操作者はわからないからです。
だから自分の手や指なら自然にできる、「感触を確かめながら手加減をする」ことがうまくできなかったのです。
それを解決したのが今回の展示でした。
実際に私もロボットアームを操作し、割れやすいポテトチップスを動かしてみましたが、この「手加減機能」とも呼べるものがオフになっていると、何度やってもポテチを割ってしまうのに、オンにするとすんなり割らずに動かすことができました。
これが実用化されれば、繊細な操作が必要な福島原発の廃炉作業にも効果を発揮しそうです。
また、慶應大学のグループはさらに先のことも考えていました。
それはこうした「手加減を行いながらの繊細な作業」のデータ化です。
たとえば熟練工の作業をデータ化する。
その作業を細かな動作別にモジュール化し、データベース化する。
そして何かの作業をロボットが行うとき、画像認識も連携させ、様々なデータを組み合わせれば、「誰もやったことのない新しい作業」でも、熟練工のように作業できるようになります。
そしてそのデータをクラウド上に置けば、様々な場所のロボットが「職人」となります。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット化)から、まさにIoA(Internet of Activity:コトのインターネット化)が実現しようとしています。
これが実現すれば、もはや製造業は「熟練の技術の継承」に悩むこともなくなります。
Industry4.0(第4次産業革命)も、遠い話ではありません。
ただ、これまた「職人の要らない世界」という、ちょっと怖い話しでもありますが。


さて、今回はハプティクスにフォーカスして最新の技術動向と、その応用についてお話をさせていただきました。
実はもうひとつ、IT Proという展示会にも行き、ここでも大変興味深い話に触れることができたのですが、それはまたご報告することにします。
現代のビジネスパーソンは、好むと好まざるとに関わらず、こうした技術トレンドに敏感であるべきです。
新しい技術や商品が目の前に現れてからでは、ビジネスでは後れを取ってしまいます。
ぜひ、日々の情報収集と、自分なりの「未来予測」を行い、「とすると我が社としてはどうすべきか」を考えるようにしてください。

メルマガ
登録

メルマガ
登録