ファカルティズ・コラム
2016年10月21日
貧困の定義と、基本的人権としての「ネット接続権」
ちょっと前の話になりますが、NHKのニュースで特集された「子供の貧困」が、ネットを中心に炎上しました。
そこの登場した女子高生が、ちょっと豪華なランチを食べたり、アニメのDVDを持っていたことで、「あんなのは貧困じゃない」と騒ぎになり、挙げ句の果てにはその女子高生を叩く人まで現れたのです。
その際、私が知ったのは、貸しの危険性すらある「絶対的貧困」と、そこまでではないが、普通の人がやっていることを我慢しなくてはならない「相対的貧困」がある、ということでした。
しかしそれでも私は、「パソコンが買えないから1000円ちょっとでキーボードだけ買った」といった女子高生の行動に対して、「まあ確かに相対的貧困と呼べるのかもしれないが、ちょっとこれは方向性がおかしいのでは?」と思っていました。
しかし、最近この記事に出会い、考え方を改めました。
『NHK「貧困女子高生」報道炎上は何が間違っていたのか』(ダイヤモンド・オンライン)
この記事で私が最も「そうだったのか!」と思ったのが、「貧困叩きをするのは貧困層」というフレーズでした。
「自分もかなりお金無くて大変だけど、貧困とは思ったことがない。甘えるな」ということでしょう。
しかし、記事中の「非正規で1人暮らしをしたら、もう相対的貧困のライン」が定説だとしたら、確かに「貧困層が貧困層を叩く」という、同族嫌悪的な状況になっていると考えられます。
また、そこには「自分は貧困層ではないと思いたい」という心理も働いているのでしょう。
これは決して良い状況ではありません。
また、私が「1000円でキーボード?」と考えたように、女子高生叩きのひとつの切り口に「もうちょっと考えた方がいい」があります。
しかしこれも、「貧困世帯の教育水準の低さ」を考えれば、「ちゃんと考えろって言われても…」ということになります。
貧困層が貧困層を叩く。
頭の良い人が「もうちょっと考えろ」と貧困層を叩く。
この構図は悲劇です。
そしてこの構図の背景は、「私たちは、どうしても自分を基準に考えてしまう」という現実です。
「自分は頑張っているのだから、お前も頑張れ」
「自分はちゃんと考えているのだから、お前もちゃんと考えろ」
このように、自分自身の価値観の押しつけになっている。
それが、今回の炎上の本質的原因なのです。
では、私たちはどう考え、どうすべきなのか。
当然、国や自治体など、公的な支援策が必要でしょう。
しかしその前提として、やはり一度「貧困の定義」を明確にしておくべきと考えます。
絶対的貧困と相対的貧困。
その違いを明確にするのです。
たとえば相対的貧困なら、記事中の「非正規で1人暮らし」でもいいかもしれません。また、「可処分所得○○万」のように、できれば定量化したいところです。
また、相対的貧困を「貧困」、絶対的貧困を「貧窮」という表現に変えるのも良いかもしれません。
貧しくて困っているのか。
それとも貧しくて窮状に陥っているのか。
こうした定義は、定義そのものが重要なわけではありません。
定義することによって、カテゴリー別の支援策を考えることができるからです。
また、定義がしっかりできていると、余計な議論(炎上)も回避できます。
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実は、会議で紛糾したり、あるいは話がかみ合わないのも、まさにこれ、「定義が違う」場合がけっこうあります。
ネットにしろリアルな場にしろ、効果的・効率的な議論には、この「言葉の定義」が重要なのです。
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さて、本件に関して、「スマホ使ってて貧困というのはおかしい」という意見もありますが、記事にもあるように、貧困に陥っている子供たち、その唯一のライフラインが、まさにスマホです。
外部とコミュニケーションを取る術を奪い取ってしまえば、さらに状況が悪化するのは目に見えています。
もちろん、スマホで無駄な出費をしてしまうのは問題ですが、それがいかに自分の首を絞めているか、教育環境の劣悪な子供たちには考えることができないのです。
…ある研修で未来洞察の手法である「スキャニング法」の演習を行いました。
政治・経済・社会・技術のトレンドから、今後どのようなことが「起きるかもしれない」のか、それを思考トレーニングとしてチームで考えてもらいました。
そこで出てきたのが「基本的人権のひとつに、ネット接続権が加わる」という読みでした。
これは冗談でもなんでもなく、現代の社会に必要な基本的人権と言えるでしょう。
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