ファカルティズ・コラム
2017年07月21日
暗黙知が形式知になる時
大変ご無沙汰しておりました。約1ヶ月ぶりのエントリーです。
出張続きと新著の構想で、ちょっとブログまで手が回らなくて…
というのは言い訳ですね。すいません。
さて、本日は”暗黙知”と”形式知”について。
一般的には、
暗黙知:
経験や勘に基づく属人的な知識のことで、他人にはうまく説明できない。
形式知:
文章や図、数字などによって客観的にとらえられる知識のことで、他人に説明し、共有することができる。
と定義されます。
具体例を挙げると、
「なんでそんなに人の名前をすぐ覚えられるの?」
「いやあ、反対になんで覚えられないのかがわからないんだけど」
というやり取りにおける「人の名前の覚え方」が”暗黙知”。それに対して…
「なんでそんなに人の名前をすぐ覚えられるの?」
「うん、コツとしてはね、初対面の人と会話するとき、自分が話すとき必ず「○○さん、私なら…」のように最初に相手の名前を言うようにするといいよ」
は、「人の名前の覚え方」が”形式知”化しています。
私の仕事である「教える」とは、まさに形式知の集合体。
様々なビジネススキルを属人的な暗黙知のままにとどめておくのではなく、言語化、時には図解にして伝え、共有するわけです。
もちろん、既に先人達が形式知化してくれたものもコンテンツにはしますが、この「暗黙知を形式知化したもの」がないと、それは「受け売りしかできない」ということで、講師としての差別化などできません。
しかし、この「暗黙知の形式知化」が必要なのは、何も私のような教えることを職業としている人間だけではありません。
組織に所属しているのなら、暗黙知ばかりでは生産性が上がりません。
また、人材育成という観点でも、属人的な暗黙知を形式知化し、それを伝えていくことも重要です。
では、どうやって暗黙知を形式知化すればいいのか。
ナレッジマネジメントの分野でも様々な取り組みが行われていますが、ここではその形式知を紹介しても仕方ありません。
皆さんがそれぞれネットで検索したり、書籍を読めばいいわけですから。
ですから、本日は私の暗黙知を形式知として紹介してみたいと思います。
自身のこれまでの講義コンテンツ作りのプロセスを振り返り、それを分析して気づいた「暗黙知の形式知化」のポイントは3つ。
1.情報の収集と分析
まさにこの3つのポイントを見つけたのが、この「情報の収集と分析」です。
自分自身がこれまで講義のコンテンツを作ってきた経験を「形式知化のプロセス」として具体的に挙げ(思い出し)、様々なプロセスの「共通点」を見つけて「分類」したわけです。
「わかりやすく説明するコツ」を形式知化したいなら、「わかりやすい説明をする人」を何人も何人も観察し、その人たちの説明の特徴を挙げていく。
そして挙げた特徴の中から「多くの説明がわかりやすい人がやっていること」、つまり共通点を見つけ、「それはつまり何を意識すればいいのか」と考え、言語化する。
こうして「暗黙知が形式知化」されます。
自分自身ができていることの形式知化でもこれは可能(今回がそう)ですが、なかなか自分は客観視しづらいですから、これは別のコツが有効です。
2.対話による気づきの誘発
正直言って、私独自のコンテンツの3割程度は、慶應MCCのスタッフ、そして研修やプログラムの参加者との対話から生まれています。
開き直るわけではありませんが、ひとりだけで思いつくことなんて、そう多くないのです。
たとえば…
1. 研修の参加者から「○○のようなケースではどうすればいいですか?」と質問される。
2. そして自分自身の経験を振り返ると、それと似たケースがあったことに気づく。
3. その時自分はどう対処したのかを思い出す。
4. その経験を話しながら、「つまりそれはどういうことか」と、一般化(抽象化)する。
5. そして「要するに××ということですね」、と結論づける。
そうして質問した人が「なるほど!」と満足してくれたとき、私は気づきます。
「これ、コンテンツとして使える!」と。
こうした「暗黙知を形式知化してくれる質問」をしてくれた方々のおかけで、今の私があります。
本当に足を向けて寝られません。いや冗談抜きに。
だから、もし業務の生産性を上げるために個人の暗黙知を形式知化したいのなら、多くの対話をしてみましょう。
いきなり「コツは何?」と聞くのでなく、「こんなときどうする?」とか「そのやり方をどうやって思いついた?」のように様々な質問をしてみましょう。
質問を繰り返しているうちに、相手が「ということはポイントは△△かも」のように気づいてくれるかもしれませんし、質問しているあなたが気づくかもしれません。
対話で暗黙知を形式知化する。これはかなり有効です。
3.既存の形式知に対する批判的思考
これもある意味、対話とも言えますが、相手からの反応はありません。
先人達の形式知に疑問を持ち、そこを起点に考えるというやり方です。
たとえばビジネススキルの本を読む、そこに書いてあることに「なるほど」とは思うものの、それを鵜呑みにして自分のコンテンツにそのまま組み込んでしまうのは、単なる「受け売り」であり、「他人の褌で相撲を取る」ことになってしまいます。
もちろんそれを否定はしませんが、それでは面白くないし、私でなくても教えられる。
ですから、「なるほど」となった後に、「でも…」と考えます。
「このステップだとかなり面倒くさいんじゃないか?」
「他にもポイントはあるんじゃないか?」
「もっと良いやり方があるはず」
などと、先人達の形式知に「あえて異を唱える」わけです。
そうすると、そこから気づくことが必ずあります。
それが「新たな形式知が生まれた」瞬間です。
私のコンテンツの4割程度はこうして生まれました。
あなたも、組織の仕組みや制度、あるいは定着した仕事の進め方など、様々な形式知を疑ってみましょう。
そして別の仕組みややり方はないのか、それを考えてみましょう。
さて、今回は属人的な暗黙知を形式知化するためのポイントについて考えてみました。
これはナレッジマネジメントという視点だけでなく、そもそも論としての「自分の頭で考える」ことの基本でもあると思うのです。
ぜひ、参考にして…だけでなく、この私の形式知を批判的に考えることで、あなたならではの形式知を生み出してください。
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