ファカルティズ・コラム
2020年08月25日
「言い切る」ことについて考える
まず最初に質問です。
店頭の呼び込みで「おいしいですよー」と言われるのと、「おいしいと思いますよー」と言われるのと、どちらが「食べてみようかな」という気になりますか?
まあ、普通は「おいしいですよー」でしょう。
では、ビジネスで何らかのソリューションを提案されるとき、「解決策としては○○しかありません!」と言われるのと、「解決策としては○○が適切と考えています」では?
これは少し意見が分かれるかもしれません。
前者を選ぶ方は「自信がありそうだから」が理由でしょうか。そういう方は後者の主張は少し頼りなく聞こえてしまうのかもしれません。
しかし反対に、自信満々に「言い切る」前者に対して「うさん臭い」と感じる方もいるでしょう。
実は私はそう感じるタイプです(笑)
ビジネスには、いやほとんどのモノゴトに絶対はない。私はそう考えます。
ソリューション、問題解決にしても、その後の調査と分析から、別の案が浮上することも十分考えられますし、また状況の変化によって適切な解決策もまた変わるはずです。
だから後者の「解決策としては○○が適切と考えています」の方が、「誠実」と感じるのです。
しかし、多くの方は「~と思われます」とか「~の可能性も否定できません」「~かもしれません」といった主張を「頼りない」「煮え切らない」と感じます。
だからその反対に「言い切る」スピーカーが魅力的に見えてしまいます。
政治家や企業経営者という、いわゆる「トップ」に対しては、特にこの「言い切る」ことを求めがちです。
「強いリーダーシップ」という概念ですね。
では、私たちはなぜ「強いリーダーシップ」を、リーダーでないにしても自信を持って「言い切る」ことをスピーカーに求めてしまうのでしょうか。
その方が信頼感があるから?
自信の無い人に国や組織、そして問題解決は任せられないから?
それもあるでしょう。
しかしどこかで「自分が考えなくて(悩まなくて)済むから」とか「ダメだったときに言い切った人のせいにすれば良いから」という『楽をして責任を取らない』という心理が働いていませんか?
…私は、それは自分にとっても、また組織や社会にとっても危険だと思うのです。
特に現在のコロナ禍のような「科学的な思考」が求められる状況において、「言い切る」人には注意すべきです。
コロナウイルスはまだまだ科学的に解明されていません。
「コロナなんてただの風邪だ」と言い切る人も、反対に「このまま行けばニューヨークのようになる」と言い切る人も、どちらの言説も信じるに値しないのです。
本来は「言い切れるわけがない」のですから。
特に「研究者」の肩書きを持っている、つまり「科学に対して誠実」であるべき立場であるにも関わらず「言い切る」人には注意しましょう。
福島での原発事故の際も、科学に誠実な研究者たちが「御用学者」と呼ばれ、一部の無責任な「別分野の専門家の言い切り」に飛びつく人たちがどれだけ多かったか。それを忘れるべきではありません。
コロナにしても放射線にしても、「ゼロリスク」などそれこそ「ありえない」のですから。
…とは言え、私は全てのシチュエーションにおいて「言い切るな」とか「言い切る人は信じるな」と言いたいのではありません。(当然ですが)
「言い切れないが言い切る必要がある」ケースもまた多いのです。
先に述べたように、「言い切らない」ことを「自信のなさの表れ」と受け取られるリスクがあるからです。その結果「頼りない」と相手が感じたら…
政治や組織のトップにはこれも前述の通り、その良し悪しはさておき「強いリーダーシップ」が求められます。
本来は言い切らない(言い切れない)のが誠実な振る舞いだとしても、あえて「言い切る」ことが求められる場面は多いでしょう。
その結果が期待したものではない、あるいは裏目に出てしまったら、いさぎよく失敗を認める。本来、リーダーにはそういう覚悟が必要です。
さらに顧客への提案や組織内での提言なども、「言い切る」ことで迫力が違ってきます。
欧米のビジネスパーソンが、「日本人は会議での意見で『I think ~』が多い」というのは、多くの日本人ビジネスパーソンが誠実であるが故に「言い切らない」という現状を表しています。
この場面では言い切るべきか、それとも言い切らない方が良いか。
そしてこの人はなぜ言い切れるのか、またはなぜこの人は言い切らないのか。
それを今一度考えたコミュニケーションが必要なのです。(と、言い切ってみましたw)
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