ファカルティズ・コラム
2021年07月21日
「黒い快楽」に抗う
過去の「イジメ自慢」が炎上し、オリンピックの音楽担当を辞任。
経済効果の高いイベントであり、国や人種も越えた融和のシンボルであり、また震災からの復興を内外にアピールする場であったはずの東京オリンピック。
しかし森元会長の失言やコロナ禍、そして今回の問題と、まさに「踏んだり蹴ったり」の五輪となってしまいました。
しかし今回は、この問題と東京五輪の是非を語るつもりはありません。
今回問題となった「いじめ」。
私たちは子どもの頃から「いじめはダメ」と教育されています。だからみんなわかっています。「いじめは悪いコト」だと。
しかしなぜか無くならないのです。いじめは。
そしてこれはいじめだけの問題ではありません。
私たちはなぜ、「悪いとわかっていることをやってしまう」のか。今日はそれを考えてみましょう。
さて、まずは考えてみましょう。
私たちが「悪いコトだとわかっている」のにやってしまうことには何がありますか?
ちなみにここでは「カッとなってつい…」や「お金がなくて」といった犯罪や、本人がそもそも悪いと思っていないものは除きます。
そうすると、大人のいじめと言ってもいい「意図的なパワハラ」。
恋愛では「不倫」「二股」など。
子供だって先生を泣かすようなタチの悪いイタズラをします。
そうそう、違法ドラッグもそう。
これらを「やったらダメなのにやってしまう」のは、「黒い快楽」を味わいたいからです。
「背徳の悦び」と言っても良いかもしれません。
脳科学者の中野信子先生は、「脳科学的に見て、いじめは本来人間に備わった”機能”による行為」と説明されています。
そのメカニズムを以下にかいつまんで説明してみます。
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人間は自分たちの共同体を崩壊させる脅威に制裁行動「サンクション」を起こす機能が発達した。そして最大の脅威(敵)は共同体を内部から破壊する存在である。
共同体の結束が強くなればなるほど、共同体を破壊しうる内部の脅威に対する排除活動が高まり、排除対象を検知する能力(裏切り者モジュール)が敏感に反応して、スタンダードと少し違う人を対象にした制裁行動が起きる。
しかし制裁行動は報復を受けるリスクがあり、かつ、労力のかかる行動である。しかし人がそうしたリスクがあってもサンクションを行うのはその活動によって「快感」が得られるからである。
サンクションを行うことで、脳から快楽ホルモンであるドーパミンが分泌される。さらに共同体のルールに従わないものに罰を与える正義達成欲求や所属集団からの承認欲求が満たされるため、食事やセックスより強い快楽を感じられる。
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※参考:『ヒトは「いじめ」をやめられない』
…怖いですね。
さらに私は、いじめだけでなく多くの「わかっちゃいるけどやめられない」の原因に、この「黒い快楽」があると考えています。
小さい頃、「やっちゃダメ」と言われたことをやっていませんでしたか? それは本当に好奇心だけでしたか? どこかに「悪いコトしたい」というのはありませんでしたか?
高校生が隠れてタバコ吸うのも、また他校の生徒にケンカ売るのも、そこに「悪いコトする俺カッケー」という黒い快楽があるから。
意図的なパワハラやSNSでの誹謗中傷も「へへへ、さぞ悔しかろう」という黒い快楽、そして不倫ではドラマの主役みたいな自分に酔うという黒い快楽。
…このように年齢性別問わず、私たち人間はこの「黒い快楽」に進んで溺れようとする愚かな生き物であることがわかります。
またやっかいなのは、この黒い快楽を知ってしまうと、まさにドラッグ中毒のようになってしまうこと。イジメがエスカレートするのも、何度も不倫を繰り返すのも、「刹那的な脳の快感」が忘れられないからです。
だから一番良いのは、ドラッグと同様この「黒い快楽」に手を出さないこと。
そのためには、自分に、そして身近な誰かに「快楽以上のデメリットがある」ことを認識させなければなりません。
それをやったら大切な人の信頼を失うこと。
オトナなら訴訟リスクがあること。
中野先生も、あるインタビューで「子どもに対しては、自分が相手を攻撃すると自分が損をする、と感じさせ「いじめ」という行為を放棄させる徹底したシステムを構築することが重要です」と仰ってます。
それに加え私は、個人個人が「黒い快楽」に手を出さないようにするだけでなく、「手を出そうとする人を止める」仕組みや文化が必要だと考えます。
残念ながら具体的アイデアが私にあるわけではありません。
しかし「止めた人がメリットを享受できる仕組み」や、黒い快楽に溺れるのを「カッコ悪い/ダサい」と嘲笑する文化などは、今こそ真剣に考えるべき時期だと思うのです。
ただでさえ、私たちは今、何を信じれば良いかわからない時代に生きているのですから。
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