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ファカルティズ・コラム

2022年03月26日

『Miles』のビジネスモデル

日経トレンディの「2022年ヒット予測」で1位になった『Miles』。
スマホのマイレージアプリとして米国で生まれ、他の英語圏の国を差し置いて日本で昨年10月にサービスがスタートしました。
「全ての移動にマイルを」
miles01.png
をコンセプトに、アプリをスマホに入れておくだけで、日々の移動距離に応じてマイルが付与され、スポンサー企業から様々な特典(たとえばコーヒー無料券など)と交換できる仕組みです。
「なんだ、ポケモンGOの機能限定版か」
はい、私も最初はそう思いました。
しかし、ビジネスモデルをBMOVで俯瞰すると、なかなか面白いことに気づきました。
Milesは、「プラットフォームビジネスでありながらプラットフォームの一機能を提供するビジネス」でもあることが見えてきたからです。






Miles.jpg
上の図がMilesのビジネスモデルを図解したBMOV(Business Model Ocerhead View)です。
ちなみにBMOVとは私が「ビジネスモデルキャンバス」をベースに相関図の要素を取り入れ、より構造を俯瞰しやすくするために考えたツールです。本家ビジネスモデルキャンバスとの一番の違いは、顧客(ターゲット)を「最終顧客」と「支払い顧客」に最初から分けたところですね。
そして下の図がポケモンGOのBMOV。3年前に描いたものです。
いずれのBMOVも、もっと書くべきことはあるのですが、見やすさのためにシンプルにしています。
PGO.jpg
さて、この2つのBMOVを見て、あなたが気づくことは何ですか?
共通点と相違点を探し、「それはなぜなのか?」を考えるのがコツです。
この先を読む前に、まずは自分の頭で考えてみましょう。


共通点としては「人を移動させることで価値を生み、その対価で成立する」ビジネスが挙げられます。
誰に価値を提供するのかというと、ポケGOはスポンサー(イオンやセブンイレブンは既に降りましたが、ファミリーマートやスシローなどが新規スポンサーとなっています)である「リアル店舗」、Milesはビジネスパートナーと呼ばれるJR等の公共交通機関やRIZAP等の企業が「支払い顧客」です。
ただ、ポケGOはユーザーが課金する(それでアイテムやイベントチケットを買う)仕組みもありますが、Milesのアプリユーザーは一切費用は発生しません。
私が「なんだ、ポケモンGOの機能限定版か」と思ったのも、こうしたビジネスモデルとしての共通点があったからです。
しかし、この提供価値には大きな相違点も存在します。
それはポケGOが「ジムやポケストップ目的のユーザーをスポンサーのリアル店舗に送客する」ことに特化しているのに対し、Milesは加えて「ユーザーの移動履歴をベースとしたマーケティング情報の提供」も行っているからです。
これを可能にしているのがMiles最大の強みとも言える「移動手段判定AI技術」です。
ポケGOは、ある意味「歩く」以外の移動手段を認めていないアプリです。それは自動車運転中のアプリ使用による事故を防ぐ意味もありますが、「歩くことでの人や店舗、景色や名所との出会い」をユーザーに体験してほしい、というコンセプトがあるからです。だから1週間の「歩行距離」でリワードが違ってきます。
Milesは全ての移動手段でマイルが貯まります。そして独自AIでその移動手段を判別し、ユーザーの属性情報とともにデータとして蓄積します。
このデータは、たとえば「自分の店がターゲットとしている首都圏近郊の20代女性は週末にどのような経路と手段で移動しているのか」といった情報の元となります。
いわゆる企業のマーケティング基礎情報となる「ターゲットの動態」がわかるわけで、ポケGOと比較するとその情報の優位性は明らかです。
ビジネスモデルとしては、ソフトバンクが自社の携帯基地局からの動態情報と気象情報を組み合わせて企業にマーケティング情報を提供する『サキミル』というサービスを始めましたが、それに近いと言えるでしょう。
さらに興味深いのは「パートナーシップ」の違いです。
ポケGOは、コンテンツの元となるポケモンというキャラクターの権利者である、商流では「川上」にあたる株式会社ポケモンや任天堂とのパートナーシップが成功の必須条件でした。
Milesでは反対にMilesのOEM版とも言える「ノルク」を共同開発するという、つまり「川下」のイーデザイン損保がパートナーとなっています。
なぜ損保会社がMilesと組むのか。
そこにはもちろん顧客である「自動車ユーザー」の動態把握という側面もあるでしょう。しかしもうひとつ、ノルク、つまりイーデザイン損保版Mileのユーザーに「できるだけ運転させない」という効果も期待しています。
というのも、MilesはSDGsの観点から「エコな移動」を推奨しているからです。
だから自動車を1として飛行機は0.1、電車やバスは3、そして自転車は5、徒歩では10の倍率でマイルが貯まるようになっています。
クルマを運転せず公共交通機関と徒歩を組み合わせた方が、何倍もマイルが貯まるわけですから、加えて健康やエコを気にするユーザーであれば、クルマを運転する頻度が、それに比例して「事故を起こす確率が下がる」、そういうロジックです。
そう考えると、次は「どこの企業版Miles」が生まれるのか、それを考えることでビジネスやマーケティングのセンスを磨いてみましょう。
さて、いかがでしょうか。
私はこのように「○○版Miles」が今後も出てくると考えていますが、これはつまりMilesが「プラットフォームビジネス」という可能性を秘めているということです。
また、貯めたマイルが暗号資産やゲームアイテムと交換できるようになるのも近いでしょうから、これは「メタバースとリアルを繋ぐインフラ」としての可能性も大きいと考えています。
私もMilesのいちユーザーとして、そしてイノベーションやビジネスモデルを研究する立場として、今後とも注目していきます。

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