ファカルティズ・コラム
2022年08月19日
思考と議論の「解像度」を上げる
最近ビジネスでも、また私も頻繁に使うようになった言葉に「解像度」があります。
元々テレビやPCのディスプレイの性能や印刷の精度を表現する言葉ですが、要するに「映像の鮮明さ」の度合いを意味します。
私の場合は「ちょっとその表現では解像度が低いですねえ」とか「もう少し解像度を上げて考えてみましょう」といった使い方をしますが、それぞれ「抽象的すぎてイメージしにくい(解像度が低い)」と「伝わらない」「考えにくい」と感じたときに使っています。
しかし、思考やコミュニケーションという分野で、なぜ「解像度」という視覚に関する表現が使われるのでしょうか。
「解像度」について考えるために、ちょっと回り道させてください。
「イマジネーション」とは「想像力」と訳されますが、元々この「imagination」は「想像する(imagine)」に名刺化の接尾辞である「tion」が付いた言葉です。
「行動する(act)」+tionで「行動(action)」と同じですね。
そして「imagine」の語源は「image(映像)」であることは明らかです。
ここから頭の中で何らかの映像を思い描くこと、これが「想像する」ことであることがわかります。
そもそも「imagine」の訳には「心に思い描く」もありますし、何より「描く」という言葉は「絵を描く」といった使い方をしますから、まさに「視覚的」なのです。
しかし、頭の中で描いたイメージ(映像)がぼんやりしていたり、モザイクがかかっていたりしたらどうでしょう。
これが「解像度が低い」状態です。
具体例で考えていきます。
社内制度として「ワーケーション」を取り入れるとしましょう。
そのために必要な仕組みや仕掛け、そしてルールを決めるための会議を行うとして、あなたならどのような意見を出しますか? また、いくつかの意見の中から最適解を選ぶとしたら、どう考えますか? さらに「いや、こっちがいい」と意見が対立したら?
日常の会議でも、こうした場面は多いでしょう。
しかし考えてみてください。そもそも「ワーケーション」って何なのでしょう?
「自宅やレンタルオフィス以外の観光地やリゾート地でテレワーク(リモートワーク)を活用し、働きながら休暇をとる過ごし方」という定義はあるものの、これではまだまだ解像度は低いと言わざるを得ません。
では、ご自分が「ワーケーション」している状況を思い浮かべてください。頭の中で明確な映像にしてみてください。あなたの隣には誰がいますか? その情景は昼ですか夜ですか? 場所は海の近くか山か、それとも他の場所か? そして具体的に何をやっていますか?
解像度は上がりましたか?
さて、今あなたが思い浮かべた映像は、他の方と同じでしょうか?
そんなはずはありませんよね。
そんな「各人が思い浮かべた映像」が違うのに、「我が社のワーケーションの仕組みとは」という議論ができるでしょうか?
「ワークしながらバケーション」なのか、それとも「バケーションしながらワーク」なのか?
「ワークがバケーション」と「ワークをバケーション」の違いとは?
「ワーク into バケーション」と「ワーク around バケーション」の違いとは?
こうした「我が社としてのワーケーションの具体的イメージ」を明確化せずして思考・議論しても仕方ありません。「ワーケーション」の形は企業それぞれ、違うはずなのです。
こうした抽象的なテーマを抽象的なまま考える、つまり解像度の低い思考や議論では、話がかみ合わないばかりか、浅く雑な発想しか出てこないのです。
これは思考や議論だけではありません。
物語仕立てのCM、あなたも見たことはあるはずです。
昔は商品のスペックを説明するCMが多かったのですが、たとえばクルマのCMでも、そうした「便利な機能の紹介」や「ハンドリングの良さ」を訴えるCMは減ってます。
反対に一切スペックに言及せず、そのクルマで「ある家族がどんな休日を過ごすのか」を15秒のドラマとして見せる、というCMが増えていると思いませんか?
これも企業がスペックを伝えて顧客に想像してもらう、つまりその商品を買った自分の未来を映像で脳内再生してもらうより、その映像を提示した方がまさに「イメージしてもらいやすい」と考えているからです。
個人的には、企業にそう考えさせるほど私たちの「想像力」が低下しているとも言えるわけで、少し問題視してます。
さて、いかがでしょうか。
現代は間違いなく「視覚情報(イメージ)重視」の時代であり、だからこそ頭に思い描く映像の「解像度」を高めることが求められています。
あなたもぜひ、「もうちょっと解像度上げて考えて(議論して)みるか」、とご自身に、そして仕事の仲間たちに問いかけてみてください。
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