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ファカルティズ・コラム

2024年05月17日

タイパの本質

昨年かなり流行したワードに「タイパ」があります。
タイパ=タイムパフォーマンスの略で、直訳すれば「時間対効果」ですが、短時間で大きな満足感を与える、という概念そのものは別に新しいものではありません。

ではなぜ、このワードが流行語にまでなったのか。
コスパの重要性については今も昔も変わらず重視されているのに、なぜ今になってタイパに光が当たるようになったのか、それを考えてみましょう。

IT、特に無線通信とスマートフォンの普及によって様々なことがいつでもどこでもできるようになった、という要因もあるでしょう。
また、このワードとセットで語られることも多いZ世代の特性もひとつでしょう。

しかし一番の要因と思われるのが、「やることが多すぎる」からだと私は考えています。

たとえばZ世代の社会人を例に考えてみましょう。

平日の昼間は当然仕事で忙しい。残業が当たり前だった時代と違い、定時までにやるべきことをこなさないといけない。
通勤の時間も電車でSNSをチェックしたり、英会話のポッドキャストで勉強しなければならない。
またランチや晩ご飯も写真撮ったり、それをSNSに挙げなきゃいけない。
そしてお風呂の時間もSNS、寝るまでの時間もYoutubeやサブスクの配信ドラマを観るなど、自分の「やりたいこと」、また友人との話し合わせといった理由で「やらなければならないこと」が多すぎるのです。

となると、それぞれの「やりたい/やらなければならない」ことを「できるだけ短時間で」こなすしかない。

だからタイパを重視するのです。
その結果、3倍速で動画を見たり、ファスト映画(違法動画がほとんどですが)を観たりすると考えられます。

さて、タイパが時代に求められている要因は見えてきました。
しかし、たとえばこのニーズに合った商品・サービスを考える立場だとしたら、さらに掘り下げて考える必要があります。

ひとつひとつの商品・サービスから何らかの価値を得ようとする場合、「どのようなタイパの実現方法があるか」、これを考えなければなりません。

私は、タイパの実現方法は3つに分けられると考えています。
なぜならば、何らかの価値を得るために費やす時間は「作業(手間)数×各作業当たりの必要時間」に分解できるからです。

たとえばネット通販は実店舗に「行く」という作業が不要ですから、「作業数を減らす」という方向性でのタイパと考えられます。映画館に行く手間が不要の映画のネット配信も同じですね。

では、「各作業の必要時間を減らす」ことでタイパを実現した例には何があるでしょう。
はい、先に挙げたファスト映画はその典型ですね。2時間の映画を30分に短縮することでタイパを実現しているわけです。
外食産業で言えば、セントラルキッチンで「調理時間(ユーザーにとっては注文したメニューが運ばれてくるのを待つ時間)」を、メニューを絞ることでユーザーの「悩む時間」を短縮するのもこの方向でのタイパと言えます。

しかし、「①作業数の削減」「②各作業の時間短縮」の他に。もうひとつタイパの実現方法があります。

それが「③複数の作業を一度にこなす」です。これができれば、価値を得るために必要となるトータル時間を短縮することができるわけですね。
昨今Podcastも含むラジオの有用性が見直されていますが、これも「聴きながら家事をこなす」などの「ながら」聴き、つまり「複数作業を同時にこなす」パターンのタイパと言えます。

ここで昨年日経トレンディが発表したヒット商品ランキングをこの3通りのタイパで見ていきましょう。

第9位にランクインした永谷園のパスタソース「パキット」は、ソースを自分で作る手間が無いという点で「①作業数の削減」、またソースを作り(温め)ながらパスタも茹でるという工程から「③複数の作業を一度にこなす」タイパでもあります。

第8位の洗濯のすすぎ時専用の消臭剤である「レノア クエン酸in超消臭」は濯ぎながら消臭もしてくれる商品ですから、やはり「③複数の作業を一度にこなす」タイパと言えます。

第5位の「ビオレUV 瞬感ミストUV」は日焼け止めを塗る時間が短縮されますから、タイパのパターンとしては「②各作業の時間短縮」です。

そして第2位の「chocoZAP」。着替える手間が無いという点では「①作業数の削減」、短時間でのトレーニングという点で「②各作業の時間短縮」、また筋トレに行ってネイルもできたりと「③複数の作業を一度にこなす」でもあります。
こう考えると、3通りのタイパを全て満たしているのが、ChocoZAPが大ヒットした要因と言えるのではないでしょうか。

さらに言えば生成AIのブームを主導した第1位の「ChatGPT」も、自分が考えるのをAIに任しているわけで、「①作業数の削減」型タイパです。

なんとヒット商品ランキングのベスト10の内5つが「タイパ商品」であり、ここからもタイパが時代のトレンドであることは明白です。

さて、重要なのはここからです。

あなたの会社の商品・サービスを、「3通りのタイパ」で見てみましょう。
B2BであれB2Cであれ、エンドユーザーは人間です。であれば、その誰もが「少しでも楽をしたい=手間と時間を減らしたい」と思っています。

あなたの会社の顧客、エンドユーザーのタイパを実現するにはどうしたら良いのか。
「①作業数の削減」「②各作業の時間短縮」「③複数の作業を一度にこなす」それぞれのパターンで考えてみるのも良いのではないでしょうか。

 

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