ファカルティズ・コラム
2008年01月17日
プラグイン・ハイブリッド VS 電気自動車
今月13日、トヨタの渡辺社長は現在開催されている北米国際自動車ショーで会見を行い、家庭用電源で充電できる次世代ハイブリッド車「プラグイン・ハイブリッド車」を、2010年までに世界市場で発売すると発表しました。
プラグイン・ハイブリッド車とは、現在のガソリンエンジンが主で、補助的に電気(モーター)を使っているハイブリッド車と異なり、家庭用電源などで充電して走行し、遠距離や高速走行時にエンジンを使用するというクルマです。(少し乱暴な説明ですが)
原油高によるガソリン価格の高騰や、地球温暖化対策としてのCO2削減などを受け、“ポストハイブリッド”として期待されています。日常の買い物程度であれば、家庭のコンセントから充電だけでほぼ賄えるとのことで、家計にも優しいクルマといえます。
しかし石油資源はいずれ枯渇しますから、本当の真打ちである燃料電池車やEV(電気自動車)までの“繋ぎ”であるのも事実です。
そしてEVに関しても、富士重工業と三菱自動車が2009年に軽自動車ベースで発売することを表明しています。
「えっ? 真打ちの電気自動車の方が発売が早いの?」
「ならプラグイン・ハイブリッドというリリーフピッチャーは不要では?」
と思われたことでしょう。
ホンダの福井社長も、昨年末の会見で「プラグイン・ハイブリッドは存在意義がわからない」と発言しています。
しかし前述のトヨタをはじめ、GMや日産も巻き込んだプラグイン・ハイブリッドの開発競争は激化しています。
では、その背景には何があるのでしょうか。
まず、来年発売される電気自動車は、まだまだ価格的にも高く、当初は環境対策への姿勢を世間に見せたい自治体や企業へのリースが主になると言われています。
また、電気だけで長距離を走るためには、小型かつ大容量の電池(バッテリー)が必要です。
価格面でもなんとか折り合いがつくレベルの現在の技術では、やはりチョイ乗りの多い都市部でしか、EVは普及しないと言われています。
しかし、技術に関しては日進月歩ですから、この問題は近い将来解決されるでしょう。
EVの普及を妨げる大きな壁は、電気「だけ」で走るEVは、従来のクルマではガソリンスタンドに当たる、充電施設が整備されていないという、社会的インフラの問題なのです。
出先でガス欠(バッテリー切れ)のリスクがあれば、誰もそんなクルマは買いませんから。
いかに家庭用電源で充電できるといっても、それは自宅にコンセントのあるガレージがあり、そこでクルマを使わないときにゆっくり充電できる人だけが受けられる恩恵です。
出先でコンセントが借りられたとしても、そこで何時間も充電を待てますか?
そう、EVの普及には、ガソリンスタンド感覚で数分でバッテリーを満タンにできる、『急速充電器』がどこにでもあることが前提条件なのです。
携帯電話のバッテリーですら、1・2分の充電ではまたすぐ切れてしまいますよね。
ここから先は私の推測ですが、プラグイン・ハイブリッド陣営がトヨタ・日産・GMという大手であり、EV陣営が三菱・スバルという中堅どころであるのも、このインフラ問題を背景とした、暗黙の“役割分担”と言えるのではないでしょうか。
つまり、資金力と国への発言力のある大手が、バッテリー切れの不安のないプラグイン・ハイブリッドを、インフラを整備させながら少しずつ普及させる。
その間に中堅どころは経営資源を集中してEVの技術を蓄積する、という形で自動車業界全体でスムーズに最終的なEV化に移行する、というシナリオなのでは?
ですから、タイトルに反しますが、プラグイン・ハイブリッドとEVは対立関係では無いと思うのです。
途中のシナリオはさておき、いずれにせよガソリンはいずれ無くなるわけですから、メーカーと国の二人三脚で、次世代のモータリゼーションを創造しほしいものです。
さて、最後にもうひとつ、EVの普及を妨げる壁があるのをご存じですか?
それは電気を食う『エアコン』の存在です。
エンジンの回転でバッテリーの充電を行っていたクルマと異なり、EVではエアコンはモーターのための電力を食う“お荷物”でしかありません。
冷房はまだ良いのです。エンジンという熱源を抱えていた、従来のクルマを冷やすよりEVの方が効率が良いですから。
問題は暖房です。
従来のクルマには、前述の通りエンジンという熱源がありましたから、そこから暖房用の熱も取れます。ところがEVでは、暖房専用のヒーター等の機器が別に必要となります。
電気で熱を出す白熱灯を思い出してください。「省エネのために白熱灯から蛍光灯へ」と言われるように、かなりの電力を消費します。
メーカーのデータでも、EVでヒーターを使うと航続距離が40%ダウンするという結果が出ています。また、ハイブリッドカーの代名詞である現行プリウスも、寒冷地の冬では燃費は普通のクルマと全く変わらないと言います。
メーカーも電装メーカーへの働きかけも含め、様々な努力をしているようですが、冗談抜きで「EVに暖房専用の小型エンジンを積む」というのも選択肢のひとつとか(笑)
意外と知られていませんが、全世界的にEVを普及させるには、こうした課題もクリアしなければならないのです。
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