KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

2013年07月09日

【ほうやのロンドン便り】愛されるイギリス王室

保谷範子

6月半ばまで肌寒い日が続き、50年ぶりの記録的な寒い春となった今年のイギリス。
春の象徴であるバラが例年より1ヵ月遅れで咲いたとたん、夏を告げるウィンブルドンが開催され、春と夏が同時にやってきているような感じです。
気候が安定し、陽も長いこの時期のロンドンではさまざまなイベントが開催されています。目玉はやはりエリザベス2世の戴冠60周年の行事で、昨年の記念式典(ダイヤモンド・ジュビリー)にはじまり、ロンドンでは今年も華やいでいます。


戴冠60周年私がロンドンに来て最初に王室の歴史と伝統を感じたのは、女王陛下の国会演説でした。5月の議会開会時に行われる女王の施政方針演説は伝統行事の1つであり、演説だけでなく、宮殿を馬車で出発するところから、半日にわたってBBCで生中継されていました。
演説の様子はBBCのwebサイトで観ることができます(http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-22441280)。特にご覧いただきたいのがイギリス君主史上最高齢・87歳の女王の頭上で光り輝く “王冠”です。ダイヤモンド中心に約3000個の宝石が散りばめられ、重さは910gもあるそうです。
中継を見ていて特に興味深かったのは、この王冠の扱われ方でした。宮殿と国会の往復の際は、女王とは別の馬車が用意され、王笏(杖)とともに、それはそれは重厚に運ばれていきました。しかもその馬車は、チャールズ皇太子の乗る馬車よりも立派なのです。王冠・王笏が象徴する「君主」の歴史と役割の重さを感じさせる光景でした。
ロイヤルワラントまた、ロンドンでは、”ロイヤルワラント”(Royal Warrant)の称号を持つ店を目にします。王室御用達を意味するロイヤルワラントは、日本の宮内庁御用達と同じように、王室に商品やサービスなどを納めている企業や個人に授けられる称号です。
日本のそれと違うのは、5年毎の厳しい更新チェックがあること、そして授与できる資格を持つ王族が限られていて、現在はエリザベス女王、夫エジンバラ公、チャールズ皇太子の3名のみが各々の名前で授与することができます。
そして現在800の企業や個人が持っているワラントの中にはなんと、チャールズ皇太子自らがプロデュースしている「ダッチーオリジナル」(http://www.duchyoriginals.com/)というブランドがあります。自然環境保護やオーガニックの提唱者としても知られる皇太子が、自身の領地の農場を10年かけて有機農場に変え、自らの手で有機農業や食品生産、自然環境や生態系の保護を実践しています。ダッチーオリジナル
1992年に創設され、今では英国オーガニック市場のシンボルブランドになっていて、大手スーパーとともに開発したダッチーオリジナルブランドの製品も多くあり、製肉、卵、クッキーなど、私たちの普段の食卓にも並びます。
収益の一部はチャリティーや寄付に貢献しているとは言え、王室の一員、しかも次期王位継承者である皇太子がブランドビジネスを成立させているところに、日本の皇室との違いやあり方に驚きます。
先日のニュースでは、今年の女王陛下の収入は昨年に比べて5%増加していることを報道していました。収入の大部分は王室領の不動産の地代やテナント料ですが、その他王室関連施設の入場料などの観光も重要な収入源となっているようです。また、今年から税金による政府からの王室費は支払われなくなり、王室自身の収入や運用にて経費を賄っているそうです。
そのせいもあるのでしょう、自分たちが観光客増加の一役をかっていることもよく理解していて、マスメディアだけでなく王室自らがwebサイトを持ち、情報発信をしています。
Her Majesty The Queen
http://www.royal.gov.uk/HMTheQueen/HMTheQueen.aspx
即位や戴冠などの公務だけではなく、普段の暮らしぶりなども、写真やビデオを用いて興味深く紹介していますし、ツィッターやフェィスブックなどSNSも活用しています。
これまで王室というと、「おカタイ感じ」「いろいろと詮索されて大変そう」という印象を持っていましたが、日々目にする映像では、のびのび楽しそうな印象を受けます。王室に関するニュースはほぼトップ扱いで報道される様子から、王室は国民にとってとても身近な存在であり、何より国民に愛されていることがわかります。歴史と伝統を重んじるとともに、イギリス国民の生活に溶け込み、新たな時代をつくっているというのも愛される理由のようです。
今月はウィリアム王子とキャサリン妃の第一子の誕生が待たれ、さらに王室の話題で盛り上がることでしょう。誕生直前の今は、男の子か女の子かの賭けは一段落し、キャサリン妃が購入するベビーカーが話題になっている最近のロンドンです。

メルマガ
登録

メルマガ
登録