夕学レポート
2006年05月18日
「15:45:40」 三浦展さん
「15:45:40」 三浦さんによれば、これが日本における階層意識(上・中・下)の割合だそうです。もちろん調査によって差はありますが、概ね同じ結果が出ているとのこと。若年層だけで聞けば男女とも「下」の比率が高くなります。30年前の調査結果と比較すると、「上」の比率は変わらない一方で「中」が減り「下」が増えており、これまでの「中流化社会」から、「下流が増加傾向にある二極化社会」へ移行しつつあるということでしょうか。
この格差拡大化現象が、日本人の意識、生活行動、消費スタイルにどのように影響を及ぼしているのか。それを追求しているのが消費社会研究家としての三浦さんのテーマです。
講演では、ベストセラー『下流社会』のベースになった2004年の調査結果に加えて、昨年から今年にかけて行っている新しい調査結果を交え、盛りだくさんの分析を紹介してくれました。マーケッターらしくセンセーショナルな結果が多く、前向きな意欲を持てないまま、刹那的な日々を送り、気づいた時には手遅れになっている事実に気づいて、更に意欲・希望をなくしているという「下」意識の人々の実像をさまざまな側面から分析しています。
とはいえ、三浦さんの根底にある意識は、単に時代を悲観的に語ってみせることにあるのではなく、「こんなことでいいのですか?」という社会や政府、そして我々に対する警鐘をならすことではないかと感じました。「ご自身は上・中・下のどこにいると思いますか」という会場からの質問に対して、三浦さんは多少の狼狽をみせながらも「私は中流です。なぜならば、私たちの世代(昭和30年代生まれ)は、日本が中流化したことの恩恵を身にしみて知っているからです」と答えました。私も同じ世代として強く共感できコメントです。
かつては、「一生懸命がんばる」「決められたことをきちんとやる」というハードルをクリアできれば、働く場所・仕事はたくさんありました。キャリア自律だの、働く意味など難しいことを考えずとも、会社や地域、家族、家業など自分の拠って立つ場所がありました。それが人々を安心させ、幸福の原点を形づくっていました。自由と自己責任の名のもとに、かつては誰もが無意識に持てた拠り所が崩壊する中で、新たな基盤を探せない人々が増えている。その結果が冒頭の数字なのでしょう。
以前、このブログにも書いた記憶がありますが、東大の高橋伸夫先生が「未来傾斜原理」という概念を提唱しています。人間は常に未来に寄りかかって、傾斜した形で現在を生きている。ゆえに、未来に明るい展望を描ける社会システムこそが必要だという考え方です。朝の来ない夜はないように、そして春の来ない冬もないように、できることならば誰もが、無条件に享受できる、小さくとも明るい未来を描くことはできないだろうか。そんなことを考えた夜でした。
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