夕学レポート
2006年11月16日
「投資はマーケティングである」 小幡績さん
1400兆円を越えるとも言われる個人の金融資産を、いかにしてリスクマネー(株式、投資信託等)に振り向けるかということは、いまや国家的な政策課題だと言われています。
団塊世代のリタイアを目前にして、彼らをターゲットにした資産運用・資産管理セミナーも花盛りです。そして、そういう場で、株を始めたい人へのプロのアドバイスとして必ず言われるのが、
・業績の良い会社を選ぶ
・よく知っている会社、応援したい会社を選ぶ
・できるだけ長期で保有する
といった原則論です。
小幡先生は、これらをすべて「それは誤りである」と真っ正面から否定します。それは挑戦的とも言えるほど刺激的なメッセージです。
株価は、様々な要因で激しく上下している。長期保有は、24時間365日間株価下落リスクに晒されていることになるので不健康。「いまは下がっていても、いつかは上がる」というがそれなら国債を買った方がよほど着実のはずだ。
よく知っている会社ほど大局が見えないものだ。お気に入り商品や上得意店舗があったとしても、それが会社の業績を保証するわけではない。ファンであるゆえに眼鏡が曇ることの方が多い。
配当で回収などと言うが、とんでもない。高配当企業(例えば武田薬品)でも配当利回りは1.5%程度、回収に70年はかかる。不動産投資なら5%が確実だ。
小幡先生によれば、常識論の理論的背景は「現代のファイナンス理論」にあるそうです。
その特徴は、
1.効率的市場仮説
2.株価はファンダメンタルズで決まる、
の2点だそうです。
つまり、「市場においては、すべての利用可能な情報は遍く公平に行き渡り、その情報に基づいて、すべての投資家は合理的な意思決定をしていくので、株価は常に正しい水準に寄りついていく。その株価を決定づける最も重要な情報は、会社の将来的な収益見通しやリスクといったファンダメンルズである」という理論に則っているということです。
従って、一時的に情報の非対称性が起きて株価が変動することはあっても、長期的にみれば、業績が良い会社の株価は上がっていくはずだと言われています。
小幡先生曰く「Beautiful World」。すべてが数学モデルで説明できると言う意味で美しく、便利な世界です。
しかしながら、実際の市場では、どんな高性能コンピュータを使っても株価の変動を予測することは出来ず、何のニュースもないのに、激しく株価が乱高下することもままあります。
バブルの生成と崩壊も「現代のファイナンス理論」では説明できないそうです。
実際の株価は、「次はきっとこうなるはずだ」という直感的な(時にはきわめて非合理的な)心理行動を取る投資家の動きで決まります。
「株価は理論が決めるのではなく、人間が決める。言えることは需要と供給のバランスで価格は決まるという経済学の大原則だけだ」というのが実態です。
小幡先生によれば、経済が人間の心理行動に依拠しているという現実に着目したのが「行動ファイナンス」という新しい理論分野で、そこで言われているのは「市場は、ひとりひとりが個性的で自分の価値観をもった投資家の集まり、であって、異なった人間同士のぶつかり合いの中で、買う人間と売る人間の数が一致したところで売買が成り立ち、価格が決まる」という市場観、経済観だそうです。
いわば、「美しくはないけれど、人間臭い世界」ということでしょうか。
そう言われてみると株式というものに抱く我々の素朴な肌感覚からすると、こちらの方がしっくりくる気がしませんか。
小幡さんはその前提に立って、「デイトレーディングこそが、時代の要請したあるべき投資家の姿」だと言い切ります。
・企業の業績にはこだわる必要はまったくない
・長期保有はせずに、その日のうちにすべて手じまいする
・会社の知名度、親和性ではなく、売れるかどうかで株式を選ぶ
といったこれまでと正反対の行動を取るデイトレーダーに「投資家の本来の姿」が見えるというわけです。
小幡先生は、「投資はマーケティングである」とも言います。
自分が小売店の経営者になったつもりで、誰に、いつ、いくらで売るかを常に考え、売れる商品だけを仕入れる感覚で株式を購入すればよいのだそうです。
個人投資家は、「なぜこの株式を買ったのか」などという説明責任もないし、投資哲学や理念などの小難しい理屈もいらない。その時々に「すぐに売れそうな株を買う」ことだけを心がければよいということです。
きょうの講演を理解するためには、「株取引とは何か」という概念のブレークスルーが必要でしょう。
小幡理論に反対する人達の方が、人数的には圧倒的に多いというのも事実です。
しかしながら、本当の意味での「自己責任による資産運用」を志向するとすれば、「素人は無理しなさんな」的な常識論に甘んじることなく、一考に値するユニークな議論であることは間違ないでしょう。
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