夕学レポート
2005年06月01日
普通の人々を大切に 「組織能力としての人材マネジメント」 守島基博さん
「守島さんは紳士やなあ」
私が私淑する神戸大の金井寿宏先生は守島先生のことを語る時よくそうおっしゃいます。そのお言葉通り、いつも謙虚で、丁寧で、それでいて無駄のない的確な対応をされます。しかも暖かい人間性を感じさせてくれる人です。新しい本を出版されるといつも献本をしていただきます。今回の依頼に際しても、依頼状を受け取られた後に、慶應MCCに立ち寄られ、直接ご快諾の返事をいただきました。
そんな守島先生のお人柄を皆さんもよくご存じなのか、定員一杯300人近い方にお越しいただきました。
「組織能力としての人材マネジメント」というタイトルは、私がお願いしたものです。「組織能力を高めるための人材マネジメント」というのが普通なのですが、あえてこれでお願いしました。
組織能力の定義とは、“獲得に時間がかかり、模倣が困難で、一度身につけると他者に対して競争優位性がある組織的な力”とのこと。だとすれば、人材マネジメント力こそそれにあたるのではと思い守島先生にぶつけたところ、「そういう考え方もできますね。面白い表現かもしれません」と受け止めていただきました。こんなやりとりが出来るのもこの仕事も魅力です。
さて、守島先生の調査によれば、約40%の企業が成果主義と長期雇用の並立を人事制度の柱にしているとのことです。とすると企業は、成果主義的な意味では負け組にあたる多くの人々を、モチベーションを維持しつつ長期的に雇用するという極めて高度な人材マネジメントを迫られているということになります。
守島先生はその結果を受けて、現在の状況を人材マネジメントの転換期と捉え、3つの方向性を示唆されました。
1.評価と処遇に限定された狭い意味での成果主義から育成と配置に力点を置く「実力主義」への転換、2.現場を支える「どこでもリーダー」の育成、3.普通の人々を大切にする姿勢の3つです。
私は三番目の「普通の人々を大切にする人材マネジメント」の話を聞きながら、守島先生がコーディネイタを務めた2月の能力開発大会(日本能率協会)で聴いたキヤノンさんの事例発表を想起しました。私が強く印象に残ったのは、驚嘆の規模で行われている徹底した手厚い人事考課研修でした。確か全管理職が毎年受講すること必須とし、年に数百本という規模で行われているとのこと。通常であれば、管理職昇進時に一度だけ行われるのが普通で、あとはせいぜい人事制度が大きく変更した際に行う程度です。イントラネットの弊害でそれさえもサイト上にマニュアルをアップするだけで済ませている企業も多いのではないでしょうか。その時はその数にただ驚くばかりでしたが、守島先生の話を伺って、なるほどと合点がいきました。あの人事考課研修は考課能力の向上はもちろんのことでしょうが、普通の人々を大切にしていくのだという会社の意思を伝える極めて効果的なメッセージの役割を果たしているのではないかということです。キヤノンさんは「実力主義終身雇用制度」を会社方針として掲げる代表的な企業ですが、一方でグローバル時代の勝ち組企業の代表格でもあります。キヤノンさんの組織能力としての人材マネジメントの一端なのかもしれません。
私のそんな思いこみの激しい感想に対しても、「確かにそういう面もあるでしょうね」と最後まで紳士的にご対応いただきながら、守島先生は去っていかれました。
先生の著書はいくつかありますが「人材マネジメント入門」は人事マンはもちろんのこと、「どこでもリーダー」を目指す全てのリーダーに呼んでいただきたい本だそうです。
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