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夕学レポート

2007年06月12日

「本当にやりたいことを追究する経営者」 田口弘さん

1990年代半ば、日本はバブル崩壊の後遺症に深く悩まされていました。後に「失われた10年or15年」と称される混沌の時代に、大きな脚光を浴びたのがミスミという会社であり、社長を務める田口弘さんでした。
販売代理業から購買代理業へというコンセプトや、究極の自律型組織を目指したプロジェクト型組織運営は、当時の日本企業が直面する経営課題をはるかに飛び越え、3歩~4歩先を行く、未来型企業の代表と言われていました。
その田口さんが、「自分がトップのまままでは、これ以上ミスミを発展させることはできない」と宣言して、著名コンサルタントであった三枝匡氏に社長の座を譲ったのは2002年のことです。
地位と権力に執着するあまり、周囲が見えなくなって醜態をさらす創業経営者を、いやという程見てきた我々には、その潔さと達観がすがすがしくさえ思えたものでした。
しかしながら、きょうのお話を伺うと、田口さんにとって、ミスミの社長を退任したことは、けっして一線を退いたという認識ではなく、「自分が一番やりたいこと」を追究するための戦略的な意思決定であったということがよく分かりました。
あれから5年、田口さんが新たなフィールドと定めたエムアウトで、いま何をやろうとしているのか、それをお聴きするために夕学に来ていただきました。


エムアウトが標榜しているのは、マーケットアウトビジネスの創出です。
「マーケットアウト」というのは、全ての発想を顧客視点に変えることで、田口さん曰く「こちら側(提供者)からお客様を見るのではなく、お客様側からこちらを見る」ことだそうです。
ミスミが目指していた「購買代理店」というコンセプトと同じで、単なる掛け声でなく、商品・サービスの企画・開発・製造・販売の流れそのものを、「生産者→消費者」から「消費者→生産者」に変革することを意味しています。
ミスミは、「マーケットアウト」を標榜する部品・金型商社でしたが、田口さんの志向は、部品・金型事業に止まらず、「マーケットアウト」というビジネスコンセプトを追究し続ける経営思想にフォーカスされていきました。
その結果がエムアウトでの新たな挑戦になったとのことです。
エムアウトは、事業ドメインを考える際に「複数事業間のシナジー効果の有無」という教科書的な発想をしません。事業そのものに脈略はなくとも、「マーケットアウト」というビジネスコンセプトが共有化されていることを何よりも優先します。
「起業専業企業」とうコンセプトには、その思想が集約されています。
つまり、どんな事業をやるのか、ではなく、マーケットアウト型のベンチャー企業を数多く産み出すことが企業目的になのです。
通常の企業が最も大切な指標と考える営業利益(本業を通じて稼ぎ出す事業利益)よりも、育てた事業がIPOをして得られる財務的な利益(特別利益)をあげることを究極目標にするという、ユニークな会社と言えるでしょう。
田口さんにとって、「マーケットアウト」というビジネスコンセプトは、40年以上もこだわり続けてきた根本思想です。逆説的に言えば、「マーケットアウト」というビジネスコンセプトをプロダクトアウトしているとも言えるのかもしれません。
その意味では、「この技術に生涯を掛ける」という発想で、起業をする技術オリエンテッドのベンチャー経営者と相通じるものがあるような気もします。
「プロダクトアウト」か「マーケットアウト」か、という戦略論的な議論とは別次元のところで、「何かに全てをかける」経営者が持つ“凄み”が、ベンチャー成功の要因のひとつであることは間違いありません。
マーケットアウト的な発想で、世の中を見据え、新たな事業シーズを探索中のエムアウトが、「これは!」と思案中の事業のひとつが、人材紹介ビジネスだそうです。しかも、人材を紹介された企業からフィーをもらうのではなく、紹介した個人から報酬を受け取ろうというものだそうです。この事業を担う人材募集中とのことですので、「我こそは」と思う人は是非どうぞ。
また、講演の中でご紹介いただいた展開中の事業のうち、最も手応えが良いのが「キッズベースキャンプ」だそうです。
「学童保育機能を備えたアフタースクール」とのことですが、田口さんは、このビジネスを「保育」ではなく「教育」と考えることで、高い付加価値をオンしたいという構想を持っています。
つまり、子どもを安心して預けもらうだけではなく、そこで学校教育、家庭教育から抜け落ちている「人間教育」を授けることができれば、新たな市場が創造できると考えているそうです。
「発展的に考えれば、英国のような全寮制のパブリックスクールのようなものだって想定できると思うのです」
そう語る田口さんの目は、間違いなく輝いていました。

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