KEIO MCC

慶應丸の内シティキャンパス慶應MCCは慶應義塾の社会人教育機関です

夕学レポート

2007年11月07日

当たり前のことが一番難しい 遠藤功さん

「ねばちっこい」という言葉は、茨城弁だそうです。
遠藤先生は、企業調査の際に、おかめ納豆で知られたタカノフーズの社長さんから聞いたとのこと。
遠藤先生の現場力三部作シリーズは、『現場力を鍛える』(2004年)『見える化』(2005年)『ねばちっこい経営』(2006年)と続きました。
『現場力を鍛える』が、総論・概念編だとすれば、『見える化』は、現場力を実現するための仕組み・手法編、『ねばちっこい経営』は、それを支える基盤文化編というふうに整理できると思います。
遠藤先生の思考プロセスの深化がみてとれる気がします。


講演は、まず総論としての現場力の解説から入りました。
遠藤先生は、日本企業の競争力の源泉は、オペレーション活動の現場に埋め込まれていると考えています。強い企業は、必ず強い現場を持っているということです。
遠藤さんが、「組織のクセ」と表現されています。
現場力を鍛えるための題材は、現場の問題にあると遠藤さんは言います。
これは先日柴田昌治さんが話した「問題を喜ぶべきものである」というお話とまったく同じ視点でした。
飽くなき問題解決活動の継続こそが、現場力を鍛える唯一の方法だということです。
「見える化」は現場力を組織に根付かせる仕組みとして有効な手法ですが、それだけでは意味をなしません。
信念を持ってやり続ける粘り強さ、しつこさ=「ねばちっこさ」に支えられてはじめて機能します。
講演の中では出ませんでしたが、「ねばちっこさ」が組織に浸透するプロセスについて、遠藤先生は『ねばちっこい経営』(2006年)の中で、冒頭の納豆のアナロジーを使って分かりやすく説明しています。
納豆の「ねばちっこさ」には「湿潤」「感染」「熟成」の3つプロセスが必要だそうです。
「湿潤」とは、原料となる良質な大豆にたっぷりと水分を染みこませ、柔らかくなるまで煮込むことです。
「感染」とは、湿潤された大豆に納豆菌を摂取する作業で、これによりムチンとよばれるネバネバが発生するそうです。
「熟成」とは、納豆菌を付けた大豆を一定の湿度・温度で発酵させ、寝かせる工程です。
組織の「ねばちっこさ」にもこれと同じプロセスがあてはまると遠藤先生は言います。
良質な人材を採用し、基礎教育をたっぷりと施して「湿潤」状態にすること。
その人間を「ねばちっこい」職場に放り込んで納豆菌を「感染」させること。
そのうえで、トップがしつこいくらいに「ねばちっこい」を言い聞かせることで「熟成」させること。
最初は、採用と教育を担う人事の役割であり、二番目は仕事を通じた育成システムを担う現場上長の責任であり、最後は、組織文化・風土を根付かせるトップの働きになります。
人材開発のトライアングルと言われる人事・職場・経営層の三者が「ねばちっこさ」という共通理念のもとに連携することで、ねばちっこい組織は生まれます。
誰もがやろうと思えば出来るけれども、続けるには面倒なことが一番難しいと言います。
そして、それを可能にする一番いい方法が「クセ」にしてしまうことだとも言います。
「ねばちっこい経営」とは、そういうものに他なりません。

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