夕学レポート
2007年11月13日
孤独であるためのレッスン 諸富祥彦さん
それは、あたかも映画『E.T.』のクライマックス場面のような光景でした。
人差し指を付き合わせながら、お互いがいま一番大切に思っているものを語り合う。しかも、偶然隣隣り合わせたに過ぎない見ず知らずの人同士で。
諸富先生が「儀式」と呼ぶその演習に、いきなり付き合わされてしまった皆さん、さぞ驚かれたでしょう。
打ち合わせなしで壇上に上げられて冷や汗をかいた私も含めて、どうなることかと心配された方もいらっしゃったかもしれません。
そして、デフォルメたっぷりに演じる「ひとりカウンセリング」にも圧倒されます。
恐山のイタコを思わせるようなオーバーな表現力は、吉本興業でも十分通用するのではないかと思わせる程の迫力でした。
期待に違わない「諸富ワールド」を味わっていただけたかと思います。
さて、笑いに包まれた愉快な講演でしたが、諸富先生が伝えたメッセージは、シンプルかつ普遍的なものでした。
自分らしく生きるためのコツは、「人の期待に添うこと」をやめること。
そのために、「孤独であること」から逃げてはいけない。
一人になって、自分の内なる声に耳を傾けてみよう。
そんなお話でした。
1920年代、インドでキリスト教の伝道師によって発見された「アマラとカマラ」という二人の少女のことをご存じの方も多いかと思います。
幼少時に捨てられたという二人の少女は、山中で狼に育てられ、文明から隔絶された世界でケモノとして生きながらえていました。
この逸話は、「あるがままの人間」が、実は動物と変わらない無力な存在であることを教えてくれます。
知性ある周囲の人間からの教育、要請、模倣を通して、人間は「学習」を深め「社会化」をしていきます。世代を超えたその繰り返しが人類の進歩の歴史とも言えます。
「周囲からの期待」は、人間をケモノではなく、知的な存在へと高め、社会を進歩させる原動力であることは、現代社会でもまったく同じです。
「顧客の期待に応えること」、「株主の要請に応える」が企業の発展の原点であることに異論はないでしょう。
「周囲からの期待」は、規範や文化をつくり、社会を形成する原理の根幹を規定していくことになります。
しかしながら、それが行き過ぎると、「ありのままの自分」を抑圧し、無意識下に押し込めてしまい、「あるべき自分」が本質であるかのような錯覚を人々に与えてしまうことがあります。
中学生の25%がうつ状態にあると言われ(厚生省調べ)、精神科や心療内科でうつの治療を受けている人は70万人を越えるとされる現代日本の病理現象は、「周囲からの期待」に応えられなくなった多くの人々が、自己崩壊を起こしているという事実の証明に他なりません。
諸富先生が語った「空気を読むことに命をかける大学生」「周囲との協調に過剰なまでにコミットする中学生」の姿は、成果主義の評価結果を人間の価値と重ね合わせてしまう大人達と相似形をなしています。
諸富先生の言う「孤独であるためのレッスン」とは、悲哀、憤怒、憎悪、悔恨といった抑圧しがちな自分の感情に素直に向き合い、その存在を認めることからはじまると言います。
「自分が出来ること」には果敢に挑戦する勇気を持つこと
「自分には出来ないこと」を静かに受け入れる心の強さを持つこと
なによりも「変えられること」と「変えられないこと」を識別する知恵を持つこと
裃を脱いで「ありのままの自分」と向き合い、内なる声を聞くことで、そんな人間になりたいと思います。
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